新人2人との夏合宿ということで、マニアックなルートは避け、美しく楽しくかつ充実しそうな谷を求めた結果、99年の夏合宿(恵振谷)でその一端に触れた北又谷に決定。金子さん達が隣りの柳又谷に入るということも勿論影響している。メンバーの木下さんとは笠谷、芦廼瀬でのプレ山行でだいたいの感じは掴めていた。下川君とは日程が合わず、沢登りでの同行経験がないまま本番を迎えることはどうかと思ったが、春合宿での感じから、何とかなるだろうと思い、そういう意味でも北又谷あたりが適当(限界?)と思われた。
北又谷は上流部のルートにいくつかの選択肢が考えられる。最もポピュラーなのが@黒岩谷から中俣新道下降、合理的な周遊ルートとなるA吹沢谷から北又乗越を経て相又谷下降、ちょっぴりレアそうなBカナホリ谷二俣から初雪山への沢を溯って相又谷下降、さらに欲張ったCカナホリ谷二俣から犬ヶ岳への沢を溯って大平川似虎谷下降または栂海新道下降・・・等であるが、計画ではBをメインにして、@ACをサブルートに設定し、状況に応じて柔軟に対応できるようにした。
◆8月13日(水) 大失態
小川温泉駐車場でのわずかな仮眠明け、朝早くから虻の洗礼を浴びる中、金子さん達が柳又に入る途中で立ち寄ってくれた。彼らを見送った後、我々も7時に予約していたタクシーに乗り込み、約20分で越道峠へ。
谷の水を汲んで踏み跡を辿る。予想外にきれいに伐採された道が続き、快晴の下、大汗をかきながら登っていく内、下降点を通り過ぎ、1208m標高点まで登ってしまう大失態!来た道を戻り、「魚止ネズコ」と書かれた白布のところで支尾根に入ると、途切れ途切れに踏み跡が続いていた。1時間半のロス。9年前の記憶と照合させながらルートファインディングの難しい尾根を下り、最後は25m懸垂で支流に降り立った。よし、あと少しで本谷だ、と下っていくが、これがとんだ大間違い。滝がドンドン出てきて側壁は立ってくる中、もう少しもう少しと下っていくが、気が付けば、完全にゴルジュの連瀑の真っ只中。こんな筈では・・・と、急な草付を這い上がり、ロープを出しての際どいトラバースを経てなんとか小尾根に出る。最後は懸垂2回でようやく本谷に降り立った。前回は越道峠から魚止ノ滝下まで2時間で来ているが、今回はなんと8時間半。1時間半のロスを差し引いても7時間掛かったことになる。ここでようやく、裏定倉谷を下り、魚止ノ滝上に出てしまったことに気が付いた。手持ちの地形図には本来下るべき1本手前の微妙な支谷にマーキングしてあったのだが・・・完全な確認ミスであった。アプローチにここまで時間が掛かった例もあるまいと思ったが、要所要所に古い残置スリングがあったことを考えると、似たような苦労をした先人もいたのだろう。この失態続きで、体力・時間と共にスリングも消耗してしまい、行く先に不安を残す。
しばらく進むと、大釜淵。9年前より小さく感じたが、近づくに従い、迫力が増してくる。7mほどの斜瀑から噴き出したジェット水流が、大釜の中を時計回りに渦巻いている。9年前は空身で一撃できたが、ラストの阪君が2回流され、3回目でようやくクリヤーするという苦労も経験している。さて今回はどうか?時計盤に見立てて数字の8の位置からクロールで11の位置を目指す。巻き返しの流れに乗り、あっという間に11の壁に着き、へつり泳ぎで12の位置にある水面下の外傾スタンスを狙うが、もの凄い力で1の方向に引っ張られ、外傾スタンスに片足が乗った頃には、上半身がジェット水流に呑み込まれ、2の方向に吹き飛ばされた。ロープを引いてもらい、後方の浅瀬に引き寄せられる。前回とは違う!前回は一発で立てた外傾スタンスに、今回はまるで立てる気がしない。前回よりもスタンスの位置が深いように感じた。水量が多いのか?気を取り直して2回目のトライ。とはいっても、どう修正すればよいのかまるで分らない。スタンスに直進すればよいのか?そんなことをすれば、随分手前からジェット水流に捕まってしまいそうだ。1回目同様、11の位置から12の方向へへつり泳ぎで向かうが、今度はスタンスに触れるか触れないかで引っ張り込まれ、吹き飛ばされてしまった。何なんだ、この水勢は!雪崩に流されたときの感覚に似ている。もみくちゃにされ、何もできないまま流されてしまう・・・大釜淵について、志水哲也氏はその著書「黒部へ」の中でこう書いている。「メンツを賭けて、3回目のトライでなんとか成功する。頭より足が50センチも高く上がるという強引な登り方であった。この突破は水量により年毎に違うが、今年は難しかった。」3回目での突破はクライマーとしてのプライドとガイドとしての意地の成せる業だろう。2回の失敗で今回は100パーセント無理だと思った。私に3回目は無かった。
仕方なく右岸のガレルンゼから小さく高巻き始める中、雨が降り始め、なんだか最悪の状況に。意外と悪いルンゼから草付を騙し騙し登ってなんとか潅木帯に這い上がり、上からロープを垂らして後続を確保。小尾根から懸垂で谷に降り立ち、水勢の強い廊下を進んでいくと、左岸から恵振谷が出合ってきた。初日は最低でもここまでと考えていた恵振谷出合。対岸に台地状の幕場適地があり、迷うことなくここを幕場とする。タープを張り、焚き火を始めると、雨に濡れていたにもかかわらず、あっという間に大きな火がなった。ずっと晴れが続いていたそうだが、1回の夕立では影響しないぐらい乾燥しきっていたのだろう。雨も止み、最高の夜を過ごせた。
◆8月14日(木) 雷雨
夜は星も見えていたが、どんよりとした朝を迎える。前夜の熾きは残っておらず、焚き火をやり直して朝食を済ませる。とても登れそうにない又右衛門滝は左岸の大高巻き。恵振谷出合から階段状の尾根をどんどん登っていく中、雨が降り出し、やがて雷雨となる。これでは谷に降りる訳にもいかず、標高差260mを登り、1005m標高点から上流側に派生する尾根を使って長尾谷出合まで一気に高巻くことにした。断続的に続いた雷雨も1時間半ほどで止み、3時間の大高巻きを終えた。
ここから先は絶妙なへつりが連続し、面白いところだが、曇天のため、美しさに浸っている余裕もなく、足早に通過。漏斗谷出合を過ぎ、高巻きを終えると、ガスに煙ったスノーブリッジが現れた。立ち込めるガスで中が全く見えないため、休憩しながらガスが消えるのを待つが、一向に消えないばかりか、雨まで降り出した。仕方なくSB上に乗ろうと右岸の泥壁に取り付くが、岩盤に薄く乗った泥がズルズル落ちてしまう。再度下に降りて、SB下に目を凝らす内に、光が射し、SBの向こう側が見えてきた!1人づつトンネル内を駆け抜ける。次に出てきた小滝を左岸の高巻きから谷に降り立ち、しばらく歩くと、左岸から大きな谷が出合ってきた。黒岩谷だ。事前に読んだ記録でどれもが好幕場と書いていたので、どんなに素晴らしいのかと期待していたが、曇天のせいもあってか、初日の幕場の方が上だと感じた。ともあれ、エスケープ等総合的に考えると、ここで泊るのがベターだ。苦労してタープを張り終わった後、火付けに加勢。雨続きでさすがにこの日の焚き火は点きにくい。チューブメタで一気に火を熾し、ようやく平和な時間がやってきた。
◆8月15日(金) 6級の藪漕ぎ
焚き火を熾して朝食を摂りながら、この日の行動について、疲れているだろう2人の気持ちを確認する。ここまで連日の雨、最も一般的な黒岩谷に入れば、この日の内に山行を終えることができるだろう。2人とももう1泊することを希望したため、サブルートの1つであり、最短距離で相又谷下降に入れる吹沢谷への変更を提案した。が、しかし、初日のアプローチで下川君がバイルを落としてしまったことやスリングを消費していたこと(3人合わせて残り14本、少なくはないが・・・)などが引っ掛かっていた。雪国の谷では、バイルの有無が懸垂下降の回数にも影響してくるので、両方無いと、行動に支障も出るだろう。溯行する吹沢谷も、下降する相又谷についても、手持ちの情報源は地形図しかないため、今回の状況ではリスクが高い。
小雨の中、出発。サルガ滝を左岸から高巻き、1時間強で吹沢谷出合に着く。スリング不足、バイル無し、ルートの情報不足、天候の不安という負の要素が気になる。新人2人にとって初めての夏合宿で、この溯下降は背伸びしすぎではないか?本流から頂を目指す方が夏合宿らしい充実感を感じられるのではないか?源流から犬ヶ岳に出れば、登山道と避難小屋があり、ルートと天候の不安から開放される。あらゆる要素を天秤に掛け、カナホリ谷から栂海新道下降を決定した。
面白いミニゴルジュを泳ぎやステミング、ジャンプで通過し、崩壊しかけた悪相のSB下を駆け抜け、10時前には初雪山への沢との二俣に到着。あまりにも快調なペースに、昼には犬ヶ岳だと勢いづくが、次々出てくる小滝も次第に厳しいものになり、蜘蛛のように幾つもの脚を張ったスパイダー状SB、出口手前に6mスラブ滝を持つ長いSBなどを、息を切らして駆け抜けていく。源流部に出てきた四段30m滝ではロープを出しての慎重な登攀となった。
あれほど続いた小滝も終わり、源頭の沢形を詰めていき、落石を嫌って右側の尾根状にトラバース。あとは尾根の藪を掻き分けていくのみと考えたが、甘かった。やがて猛烈なMIX藪となり、石楠花と巨大な這松(?)の木登り藪漕ぎにもがき苦しむ。たまに笹薮が出てくるとホッとする。1m進むのに1分、10m進むのに10分という、久しぶりの6級の藪漕ぎだ。1時間半に及ぶ大格闘の末、待望の登山道に踊り出た。後続2人の姿が残り15mほどまで近づいてきたのが見えたが、登山道に出るまでさらに20分を要した。ガスった登山道はひと気が無く、本当に小屋があるのか不安すら覚えたが、犬ヶ岳の頂を踏み、下っていくと、ガスの中から栂海山荘が現れ、何人もの登山者が物珍しい沢ヤを出迎えてくれた。2階の1室が空いていたので、我々3人で使わせてもらうことになった。計画書には犬ヶ岳まではサブルートとして記載してあるが、栂海新道下山は記載していないため、留守本部の志代美さんに電話して現在地と行動予定を伝える。この栂海新道は北アルプスを縦走してきてそのまま日本海まで下ることができる登山道として人気があるが、半ばエスケープでこの地にやってきた我々には、とてもそんな気力も体力もない。新潟から来た大パーティーの親切なご婦人が、エアリアマップのコピーをくれて、白鳥山から携帯で坂田峠までタクシーを呼べることを教えてくれた。今山行で初めてガスを使っての調理。焚き火が無いのは残念だが、小屋の安心感、快適さも捨て難い。夕食中に雨が降り、外で食事を摂っていたパーティーも中に逃げ込んできた。夜中12時過ぎからもの凄い雷雨となり、窓越しに稲光が見える。小屋でよかった・・・。
◆8月16日(土) 悪天も味方に
4時頃目覚めると、まだ断続的に雨が降っていた。バックヤードの雨水タンクで水を汲み、お湯を沸かす。5時を過ぎた頃から、合羽を着込んだ登山者が次々と出発していく。前日バックヤードに干しておいたタープは、雷雨でビショビショになっており、まったく余計なことをしたものだ。
我々も小雨の中、下山を開始。もともと溯下降の予定だったため、運動靴は無く、沢タビでの長時間の下山が気掛かりだったが、昨晩からの大雨で登山道にはぬかるみが多く、沢タビには絶好のコンディションと化していた。ところどころ水田のようになった登山道を快調なペースで下っていく。晴れていれば、炎天に焼かれるであろう尾根歩きだが、小雨から曇の天気も幸いした。あらゆる天候を味方につけたような気分で、白鳥山に到着し、1時間半後にタクシーを呼ぶ。首尾良く下山後、定石通り風呂・飯ゴールデンコースとなるが、「きときと寿司」を巡るドラマが待っていた。
【DATA】
●8/13 越道峠7:45→北又谷旧魚止滝上16:15〜16:30→恵振谷出合18:50
●8/14 幕場6:20→長尾谷出合9:30→白金谷出合11:25→漏斗谷出合12:35→黒岩谷出合16:40
●8/15 幕場6:10→1130m二俣9:50〜10:05→登山道1560m付近15:30〜16:20→栂海山荘16:50
●8/16 栂海山荘6:00→白鳥山9:25〜9:40→坂田峠11:00
【メンバーより】
今回の山行は、今までの山行の中でも一番きついものでした。毎日、体力の限界を超えていたように思います。そして、疲れが蓄積し、3日目の夜に発熱しました。3、4日目のルート変更が無かったら、どうなっていたことか。
今回の山行では、いろいろな経験をしましたが、特に感じたのがエスケープルートの重要性でした。何かが起こった時に、助けてくれる人のいない登山では、数多くのエスケープルートを考えておくことが、山行の成否を分けることになることもあるという事を実感しました。今回はそのお陰で、ルート変更こそありましたが、非常に達成感のある山行だったと思います。(記:下川)
7月の3連休の笠谷の帰り道のそば屋で夏合宿は黒部の北又谷か奥利根の沢を考えていると林さんから言われて今まで聞いたことしかなかった山域の名前がでてきたときには今の自分の実力で大丈夫だろうかという不安もあったがそれよりも是非行きたいという気持ちのほうが強かった。
笠谷から夏合宿までの間に海ノ溝谷、芦の瀬川と苦手な泳ぎのある沢にも参加してちょっとでも泳ぎや体力に自信をつけて夏合宿に行きたかった。そして少しは自信がついて迎えた当日でした。しかし、その自信は初日の北又谷本流へ降り立ったころには崩れてしまいました。本流に降りる下降路でバテてしまいました。これからあと3日間あるけど皆についていけるかと・・・初日は恵振谷出合泊でした。
2日目夜が明けるとすぐにでも雨が降り出しそうな空でした。出発すると同時に大粒の雨が落ちてきました。そして雷も。雷雨です。どんどんひどくなっていきます。幸い出発してすぐに大高巻きなので増水の心配はありません。しかしこの大高巻きでバテてしまい足のほうまで攣ってきました。巻きが終わって沢に降りるころには雨もあがって薄日が差していました。あれだけ合宿前に準備しておいたにもかかわらずこの体力のなさ自分を責めても気分が暗くなる一方なので今日はとことん沢を楽しんでやろうと気持ちを切り替えました。つぎからつぎへと渡渉、へつり、登攀。とくにへつりが印象深くておもしろかったです。ここは泳ぎやろと思っていてもなんとか最後までへつっていけたり、そんな場面ばっかりでした。何回泳ぐ準備をしてライフジャケットを着かけたことか。結局今回の合宿では着て泳いだことは一回もなかったです。順調に遡行を続けていましたが夕方ちょっと薄暗くなってきたかなというときに雪渓が現れました。高度も上がってきてるし明日からは雪渓ともつきあわなければならなのかと思いました。今晩は黒岩谷出合泊でした。
3日目は雪渓との格闘でした。いままでに見たことがないような雪渓をくぐりました。緊張しました。なかにはくぐってからの岩登りもありました。そして源頭部が近くなり稜線までの藪漕ぎです。林さんいわく6級だなと。本当に疲れてバテテしまいました。稜線にでて犬ヶ岳の山頂を踏み今夜の宿栂海山荘が見えたときはほっとしました。
今回夏合宿に参加してとてもいい経験なりました。3泊4日でいろいろな体験ができてよかったです。(記:木下)