美濃/飛騨川飛水峡

■2003/7/27 高橋/林真・伊藤・山下・安井  藤原(無所属)


■なんと3000メートル以上、日本最長の泳ぎの谷、美濃の大渓谷を行く。

[序章]
飛水峡の遡行は10年以上前から心に描いていた。20年ほど前に愛知岳連隊がひと月をかけ
て側壁の完全トラバース
(へつり)のルートを完成させていることも覚えていた
僕は沢登りのスタイルにこだわって、泳いでへつってあの巨大なゴルジュを抜けたいと思っていた。
しかし、肝心の泳ぎが下手ときては、どうしても踏ん切りがつかなかった。
そうこうしているうちに、当会の山田大介が99年に下部を試遡行し、飛水橋から上麻生橋までの
核心部を含む長大な下降は
02月の青島・松原・成瀬パーティー海外遡行同人、木下・
日下パーティ
(同)になされることになった。今回の僕らの試みは実質的には四番目の記録となる
ようだ。

僕らがとった下降ルートは飛水橋から大柿橋間の単調な部分を避けた、これぞ飛水峡ともいうべき
大柿橋から上麻生橋手前の細尾谷出合までとした。距離で約7キロ。過去の記録(木下徳彦・飛
水峡下降「きりぎりす
」日本山岳会青年部200)を見る限り、おそらく水泳距離も3キロは
超えると思われる。


[記録 7/27 晴れ]

「溺死する夢を見た」藤原氏が唐突に言った。飛水峡の偵察を終えて、集合場所である道の
駅でのひとコマだ。実は僕も同様な夢を見たのだ。泳いでも泳いでも前に進まない。やがて
力が尽き、水面に落ちた木の葉のようになって永遠に漂いつづける…そんな夢なのだ。
偵察は念入りに行った。終了地点の上麻生橋や細尾谷出合から見た、とんでもないぐらい高
く不気味な切り立ったゴルジュ。大柿橋や勝橋から見るまるでダムのようにも見える深く淀
んだ長大な瀞も、逃げ出したくなるようなスケールなのだ。
はっきりいってものすごいプレッシャーを感じた。「飛水峡をやりたい」なんて言わなけれ
ばよかったのか、夢の余韻と相まって、恐ろしさが一層増幅されていった。

そして、それぞれの思惑を抱えて飛水峡下降が始まった…。

大柿橋で遡行準備を整える。泳ぎが得意な林を除いて、全員がライフジャケット着用である。
ある者はザックの中に空のペットボトルを何本も忍ばせ、僕と伊藤・山下はビート板まで小
脇に抱えている、ザックを背負っていなければ一見して海水浴にいく集団に見えただろう。
大柿橋の真下から下降を開始。いきなり大瀞の泳ぎが始まる。それぞれが思い思いのスタイ
ルで泳ぎだす。水の冷たさが薄い沢登り用シャツ一枚の身に容赦なく責めてくる。足回りは
釣り用のウェーダーを履いたおかげで保温効果はありそうだ。しかし、平泳ぎで足をキック
してもまるっきり進まない。他のメンバーはどんどん先に行ってしまう。こんなはずではな
い、と思いながら更に足をバタバタするが、進まない、進まない。同じく泳ぎが苦手な藤原
氏や伊藤さんはラッコ泳ぎで快適に泳いでいく。へとへとになって
300メートルを泳ぎ、皆
が休憩しているレストポイントに着いた時には、すでにリタイヤする決心をしていた。

しかし、まだ始まったばかりなのだ。少なくともこの700メートルを超える大瀞を突破くら
いしなければ格好がつかない。

今度は僕もラッコ泳ぎに変える。なんとか皆についていけるようになったが、流れは全くなく、必要以
上に手足を動かしてもあまり進まない。見上げれば下降を開始した大柿橋がまだすぐそこに見えて
いる。ちっとも進んでないのだ。
まるで大海原にひとり投げ出された難破船のように漂う…そう、夢で見たことが現実になっているで
はないか。このまま力尽きて溺死するのではないだろうか。だとしたらかっこ悪い。ライフジャケットを
つけた土座衛門はないだろう。
時間は容赦なく過ぎ、手足を棒のようにしてようやく大瀞が終わった。ここからは冷えた体を温める
ため、陸に上がってへつれるところは極力岩場を行く。しかし、切り立った岩と岩の隙間は容赦なく
出てくる。その度に泳いでまた岩に這い上がることを繰り返す。
愛知岳連隊がやったという完全トラバースはどこを行ったのか?岩場のてっぺんまで登れば行けな
いはずはないが、水面ぎりぎりのトラバースをしたということだとしたら疑問を感じる。
国道沿いに建つ黄色いレストハウスの下を過ぎる。いつも山に行く度にこの建物の前を通っていた。
今日は岩場が複雑な地形をつくっている絶景から見上げている、ざまあ見ろだ。

このあたりから瀬がでてくるが、ラッコ泳ぎで一気に流れに乗ったりして快適に下れるとこ
ろはわずかで、すぐに大瀞、
600メートル以上はあるだろう。ひたすらに泳ぐ。藤原氏は泳
ぎを避けるため、岩場のへつりに切り替えたようだ。しかし何度も詰まって、その度に短い
泳ぎを繰り返している。

僕はもう覚悟を決めた。とにかく泳ぐのだ。泳ぎが得意な山下さん(元インストラクター)に「ビート板を
膝の下に浮かせると手だけで楽に進めますよ」とご指導。さっそく試してみると、進むではないか。何
で早く教えてくれなかったんだよぉ。


勝橋通過13時。出発から時間以上かかっている。それにしても長い。もううんざりするほ
ど泳いでいるが、一向に進まない。頭上を見ると送電線が三本。右岸の側壁から滝が落ちて
いる。目で追いながら泳ぐが、いつまでも視野に入っている。側壁は発達しているが、威圧
感はあまり感じない。核心部はまだまだ遠い。

釣師のおじさんたちにエールを送られながら、やがて核心部のゴルジュ帯に突入。感激的な光景だ。
U字型に深く切れ込んだ圧倒的な高さと幅が狭まり、何度も蛇行を繰り返す。時折出てくる流れに乗
り側壁を足でけったり、手で突っ張ったりしてくぐり抜ける。ディズニーランドのジャングルクルーズの
ような面白さなのである。側壁には美しいすだれ状の滝が何本も落ち、全員が感動の声を上げてい
る。
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来てよかった。この絶景を見た人が何人いるんだろう。ほんとうに来てよかった。やがて僕
らは最後の時を迎えた。ゴルジュを抜けると細尾谷出合。車をデポした展望台はすぐだった。
ここで上陸。ようやく泳ぎから解放された。手と足は棒のようになってる。まだまだ泳いで
いるような感覚が抜けず、誰もが最後の岩場を登るときにふらついていた。
それにしても素晴らしい経験だった。沢登りのスタイルにこだわり、カヌーやボートではな
く、何よりも己の手と足で泳ぎきったことが嬉しかった。
[高橋 記]  

※装備について/ザイル・ヘルメットは持参したが、使用しなかった。水が思った以上に冷たいので、
ウェットスーツがあったほうがいい。ライフジャケット・ビート板もあれば便利。ライフジャケットは保温
効果がある。我々は使用しなかったが、足ヒレがあると早く泳げるだろう。沢靴で泳ぐのは、正直いっ
てつらいものがある。

<タイム> 大柿橋10:15  勝橋13:00  細尾谷出合(上陸)15:30

 

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