■泳ぎと激流の渡渉。奥美濃の秘渓、倉見七里を行く
「倉見七里」。何だかぞくぞくするような響きだ。この谷の存在を知ったのはかれこれ
10年以上前。各務原山岳会の日比野和美氏『百山百渓』の中に「いつかは歩きたい」
という熱い思いが語られているのを目にしたときからだ。
そんなに難しい渓なのか、ずっと心に残っていた。それから何年かして、青島靖氏「野
良犬通信5」に溯行記録が載った。100メートルを超える泳ぎや深い瀞、激流の渡渉、
倉見七里はパワースイミングでかわす渓だった。
(うーん、そそるじゃないか、泳ぎの谷)…といっても、泳ぎが苦手な僕の力で行ける
のか。藤原・藤澤という同じく苦手な仲間ばかり集まっても何の解決策にならない。そ
うこうしているうちに水泳の元インストラクター山下嬢の参加が決まり、泳ぎの部分は
彼女に任せて(?)山行が始まった。
7/26 晴れ
前日までの長雨が嘘のように晴れ渡っていた。梅雨が明けたのだ。
人が住む最奥の村、能郷から溯行終了点の黒津へ車をデポしに向うが、情け容赦ない通
行止めのゲート。仕方なく能郷白山の登山口にある能郷神社まで戻り、溯行準備を整え
る。
炎天下の下、ウェットスーツやウェーダーを履いた思い思いの出で立ちで出発。国道から垣間見える倉見七里は増水した上に、物凄い流れの速さに唖然とする。川幅も10メート
ル以上あるようだ。この時点であっさり溯行をあきらめ、下降に決める。
黒津までは1時間程度の歩き。あまりの暑さに汗を噴き出しながら、下降地点の取水堰堤へ。
各自ライフジャケットを着け、突入。いきなりの腰上までの渡渉。とにかく流れが速い。
5人でスクラムを組んで進むが、バランスを崩しそうになるくらい速い。こんな緊張する渡渉も久しぶりだ。これでは先が思いやられる。
最初に出てきた淵でしばし泳ぎの練習をし、まずは流れが速い瀬に突っ込む。あっという間に60メートルを泳ぎ下る。左岸から小滝を懸けた大瀞は渦を巻いているような不気味な流れ。誰も突っ込もうとしない。スイマー山下はどうした?仕方なく僕が泳ぎだす。
しかし、流れから外れ、あれよあれよという間にどんどん岸に流されていき、やがて左岸の壁の水が淀んだところから抜け出せなくなってしまった。まるでミズスマシのようである。懸命に泳いでも戻るに戻れない。それを見ていた藤原氏は流れを読んで一気にラッコ泳ぎで突破。あとのメンバーが続く。僕はといえば、何とか岩を登り、流れを見つけて、ようやく合流することが出来た。それにしても恐ろしい体験だった。
倉見七里はいよいよ本領発揮というべきか、容赦なく難関が出てくる。左岸が立った壁になっている40メートルの淵は流れが速く、渦を巻いている巨大なプール。ロープをつけてへつり気味に突破を試みるが、どうしても押し戻されてしまう。
不本意だが左岸から巻いて懸垂15メートルで下降。思ったとおり、靴の中からヒルが出てきた。
やはり長雨の影響か、水量は多く、おそらく通常の水位ならば出ているはずの雑草が完全に水没状態の川原を見ながら渡渉を繰り返す。誰も流されないように必死である。国道のロックシェードが見えてくると、崖の途中にトラックの残骸が引っかかっており、メンバー一同「ヒェー」。恐るべし倉見七里である。
60メートルの長淵は左岸をロープを使ってへつり、流れが遅くなったところを泳ぐという動作で突破。100メートルの瀞はラッコ泳ぎで抜ける。ゴルジュも素晴らしいが、水の蒼さが何ともいえないくらい美しい。
10メートルの淵を最後の泳ぎで突破すると広いゴーロとなり、やがて砂防堰堤が見えてくる。左岸の樹林帯を登り、国道に出た。
ここでライフジャケットを脱いでようやく水との格闘が終わった。しかし、この後がやっぱり奥美濃、ヒルとの格闘が待っていた。僕は右足に一匹、藤原さんは何と、ライフジャケットの内側から2匹。他の女性軍は運がいいのか被害なし。
総水泳距離300メートル、水と戯れた充実した一日だった。倉見七里は“奥美濃の宝”と言っておこう。[高橋 記]
コースタイム
車止めゲート10:30 黒津取水堰堤下降点11:20 車止めゲート17:30