北ア/黒部別山大ヘツリ尾根〜剣岳八ッ峰T峰W稜〜早月尾根

■03/5/1-4  ■林正/中村 ■林正(記)


見事な飛び石連休で長期休暇が難しそうに思われたが、なんとか5連休は確保。パートナーであるM大の一流クライマー中村理にS字峡横断からの剱か、黒部別山からの剱のどちらがよいか提示したところ、和田誠志さんの文章を読んで感化された彼は、黒部別山からの継続を希望した。2年前の大タテガビン第一尾根〜八ッ峰U稜の苦労を思い出し、今の僕が行けるのか?と不安が強まったが、とりあえず大ヘツリ尾根から八ッ峰W稜への継続を計画。富山県への届出にあたり、この地へは残雪期に5度、積雪期に1度訪れているが、リーダーを務めるのは今回が初めてという事実を突きつけられ、ぐっとプレッシャーが高まる。まあ、春だから大丈夫でしょう…。

【徒渉】1日(快晴) 未明に松本で急行ちくまを下車。いつも止まっているはずの急行アルプスの姿がない…時刻表にも載っていない…念のため駅員に確認すると「もう無くなりました」という返事。知らなかった…東京方面から北アへの貴重な足が無くなってしまったということか?松本で僅かな仮眠の後、始発で大町へ。バス、トロリーバスへとスムーズな乗り継ぎで8時過ぎには黒部ダムに到着。GWの狭間ということで、登山者の姿は少ない。

黒部川の左岸をのんびり下っていき、先行していた5人パーティーと挨拶を交わす。八ッ峰へ向かうとのこと。我々が大ヘツリ尾根から八ッ峰と言うと「?」という顔をしていた。内蔵助谷出合付近は大きく雪が割れており、本流と内蔵助谷が共に勢いのある流れを見せている。大ヘツリ尾根へはさらに本流を下って行かねばならないが、雪が繋がっていない。行きつ戻りつ、本流右岸から左岸への徒渉ポイントを懸命に探すが、これが無い…30分以上かけて、出合から50mほど下流の浅瀬に弱点(?)を見出す。水の中に入る徒渉にはいくつかの方法(工夫)が考えられるが、春で快晴ということもあり、最もシンプルな方法を取る。つまり、そのままジャブジャブと水の中を走り抜けるのだ。まずは僕がエントリー、中間部で意外に強い流れに脚を取られて体勢を崩し、下半身がずぶ濡れに。次の中村君は入水時に水勢に押されて全身水浸しになってしまう。ともあれ無事に渡り終えて、対岸の大石の上で濡れ物を干しながら日向ぼっことなる。結果的には、内蔵助谷をより上流の雪渓の繋がった所まで溯って渡った方が良かっただろう。

もう後へは引けなくなった。不退転の決意で(もう徒渉が無いように…)と祈りながら、さらに黒部川を下り続け、大タテガビン、そして大ヘツリへ。細い雪渓となった右ルンゼを登高し、右俣のスラブへ入る。階段状のスラブを快適に登り、途中で流水をジュルジュルすすりつつ、左岸尾根の見晴らし台に出る。下流から左岸尾根に取り付き藪を漕いでやってくる中村君をしばし待ちながら、濡れ物を広げる。

ここからP3の藪岩峰を目指してスラブから藪尾根へと登高。5mほどの露岩の段差は、最後のモンキークライムでパンプしそうになるのを必死に堪えて越える。ようやく出てきた雪稜はP3の基部へ繋がっていた。2002年3月に積雪期初登した京都の伊藤パーティーはこの基部を幕場にしているが、堅雪の急斜面で、P3の圧迫感もあるのでパス。黒々とした藪壁と化したP3には取り付く気がせず、尾根の北斜面に繋がった雪面をとりあえず登高していく。北面の雪は途切れ途切れながらも上部まで続いており、結局P3からP1までの藪岩峰を全て巻いた格好で緩やかな雪面へ出る。無事に安全圏へ抜けることができたことを祝い、ビールで祝杯。

【渇望】2日(快晴) 前日遅くまで動いたので、この日はちょっと遅い出発。冬は雪崩のリスクが高いといわれる上部の広大な雪面も、今は問題なし。小1時間で南尾根へ出た後、時折左右の雪壁や藪壁を使いながら、別山南峰へ。分岐に赤布のある西尾根からハシゴ谷乗越経由で支谷を下り、剱沢へ。中村君はここまでサングラスも掛けず、日焼け止めも塗っている様子がない。春の日差しを舐めると痛い目に遇うぞ、とその両方の指示をする。剱沢は真砂沢出合より下流で水が出ていた。おいしい水汲むぞ!割れている雪渓の厚さは3mほどあり、そう簡単には沢床に降りられない。ポイントを探して歩き回り、ようやく弱点を見つけて剱沢の雪解け水を浴びるように飲み、さらに水筒を満たす。中村君の方は雪解かし水が好きと見えて、水筒に雪を詰め込んでいる。美味しい水に執着するのは沢屋の性なのであろうか?

中村トップでW稜の末端に取り付く。水で3kgも重くなったザックが堪える。左稜の支稜に取り付いたつもりだったが、登って行くと右稜に続いていた。右稜の本稜と合流すると、驚いたことにトレースが出てきた。GW前半のトレースか?これを辿るように左稜へトラバースし、P1(無名峰)左のルンゼに入る。2000年の黒部横断山行では雪崩が頻発し、W稜の登高を断念させた因縁のルンゼである。あのときはガスの中で、大きく危険なルンゼに見えたが、快晴のこの日はずいぶん小さく見える。ほどよい堅さのルンゼを200mほど直上し、PI左のコルへ出る。この先からW稜の核心となるため、このコルを幕場とする。両面切れ落ちていて絶好の幕場とはいえないが、すぐ上の枝沢から水が汲めるので、燃料と時間の節約ができた。MSRはもっぱら濡れた靴の乾燥用に供され、7時に就寝。

【誤算】3日(快晴) 早寝早起きで2時半起きの予定だったが、1時間以上寝坊してしまう。枝沢から雪壁を登高し、尾根が右に屈曲するところで藪壁を抜けて雪稜へ。すぐに高さ8mほどの露岩に阻まれ、ここでアンザイレン。

1P目:露岩右側の藪に絡みつつ直上し、傾斜の落ちた雪稜の左斜面を進む。林リード、50m。

2P目:雪稜上を進み、藪岩峰の上まで。中村リード、55m。

3P目:水平な雪稜から這松混じりの雪稜へ。林リード、60m。

4P目:雪稜をアップダウンして小さなコルへ。中村リード、60m。暑さの為ここで大休止。

5P目:雪稜登高。林リード、60m。

6P目:雪稜から小ピークへ。中村リード、20m。

7P目:5mのギャップを懸垂下降。

8P目:雪稜の右斜面から小岩峰基部を右へ回り込む。中村リード、60m。

9P目:ルンゼ状を登高して小岩峰上の雪稜へ。林リード、60m。

10P目:雪稜から小ピークへ。中村リード、40m。

11P目:5mのギャップを懸垂下降し、雪稜を20m進む。林リード。ここでこの日2回目の休憩。

12P目:雪稜を下降後、四ノ沢のトラバースからV稜へと続いているトレースを離れて、W稜の左斜面を直上し、安定したシュルント内でピッチを切る。中村リード、60m。

13P目:中間部でやや雪が切れる雪壁を直上。林リード、60m。

14P目:暑さで緩んだ雪壁を直上し、本稜へ。中村リード、65m。中村の足元から小さな湿雪表層雪崩が頻発。

15P目:雪稜〜雪壁〜傾斜の落ちた雪稜へ。林リード、60m。

16P目:雪稜〜雪壁〜V稜と合流。中村リード、60m。

ここでロープを外して、藪・雪混じりの岩稜をT峰まで進み、大休止。岩燕が我々の周りを飛び交う。T・Uのコルへは状態がよく、ノーザイルでクライムダウン。U峰・V峰・W峰からは何れも懸垂し、X峰から2ピッチの懸垂でX・Yのコルへ。ここまでトレースや幕場跡こそあるが、誰1人会わず、GWの八ッ峰とは思えない。夜には風が強まるが、寝る前にはお勤めに出る。中村君と並んで強風に注意しながら用を足した後、テントに戻ってからズボンの右側が濡れていることに気付く。なんと、中村君のものが風で見事なカーブを描き、僕の右脚をヒットしたのだ!てんんんめぇぇぇ…などと今更怒っても仕方ない。いつかネタで使ってやるから、覚えとけ!

【滑降】4日(晴) 今山行初めてまともな時間に出発。順調に行けば昼過ぎには馬場島だ。Y峰への登りは、過去は何れも急雪壁だったが、今回は下部で露岩が出ており、少々悪い。この先Z峰までの間、驚くほど鋭い文字通りのナイフリッジが続き、一歩一歩に寸分の狂いも許されない。改めて八ッ峰は日本を代表する雪稜だと思う。Y峰・Z峰は共に懸垂し、八ッ峰ノ頭へ。小窓尾根の上部に人が見え、どこからか声も聞こえ、次第に人の匂いが強まってくる。行動を再開してバイルを落としていたことに気が付くが、近くに落ちているのを見つけて回収。池ノ谷乗越へトラバースし、そのまま剱岳本峰へ向かう。この辺りは春の剱のメインストリートだが、例年に比べて人が少なく、本峰までの間に3パーティーぐらいしか会わなかった。本峰で記念撮影後、長い長い早月尾根の下降に入る。早月小屋まで下れば安全圏。休憩がてら登攀具・ヘルメット・アイゼンを外し、さらには上半身裸になって、すっかりリゾート気分。かたや中村君の方は、全身雨具を着込んだままで、脱ごうとしない。雪焼けがひどく、ザックが擦れて痛いとのこと。ここ早月尾根にもテントが1張りしかなく、さすがに暇を持て余していたのか、小屋番が出てきてひとしきり談笑。

さて、ここから下部はグリセードでガンガン下り、松尾平の手前から白萩川へ下るスキーのトレースを辿って滑降する。程よい傾斜の大斜面は、スキーが無くても最高の滑りを堪能させてくれた。白萩川沿いの林道に出ると、軽装のスキー・パーティーが談笑していた。白萩川の美味しい水を浴びるように飲んだ後は、もう1つの楽しみ(=フキノトウ)が待っていた。道端のフキノトウを摘みつつ歩いていたら、馬場島まで40分ぐらい掛かってしまい、中村君を随分と待たせてしまったようだ。ヒッチハイクという重要な任務を持っていた中村君であったが、キャンパーで賑わう馬場島に着いた途端、それが不可能なことを肌で感じ取り、早々と断念したようだ。そんなとき、タイミングよく通りかかったタクシーに声を掛けられ、車中の人となる。しばらく先で別の2人組と相乗りとなり、割り勘となる。(ラッキー!)上市鉱泉でゆったりと4日分の垢を落とし、五月晴れの下、Tシャツ姿の爽やか系に戻った僕とは対象的に、着替えを持っていない中村君はちょっと強烈。素肌の上に黒いフリースジャケット、雪焼けで黒光りする顔面に黒いサングラスというワイルドで異様な着こなし。雪盲の症状が出ていてサングラスは外せないらしい。富山駅で待ち合わせする間に、薬局で火傷の薬を買ってきた彼は、それを顔面に塗っていっそう黒い輝きを放っている。名古屋まで一緒かと思うと気が重かったが、運良く「特急ひだ」に座席を確保でき、宴会、居眠りというゴールデンコースで帰名した。

来春は暦通りで5連休。丸山から八ッ峰T稜あたりかな…。

[コースタイム]5/1黒部ダム(8:50)内蔵助谷出合付近(9:35〜10:50)大ヘツリ尾根末端(13:00)1965m付近(18:30)

5/2幕場(6:00)南尾根2200mコル(6:50〜7:20)剣沢(10:25〜11:00)八ッ峰T峰W稜P1コル(13:50)

5/3幕場(5:30)八ッ峰T峰(12:00〜30)X・Yのコル(16:00)

5/4幕場(4:50)八ッ峰ノ頭(6:45〜7:10)剱岳山頂(8:25〜40)早月小屋(10:45〜11:20)馬場島(13:30)

 

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