九蔵川本谷は地図で見たかぎりでは沢にそって林道が走り、源流部には堰堤が出てくるという、あまり面白味がない沢である。
7月29日、昨日の小俣谷に続いて懸案だった九蔵川本谷に入る。九蔵集落を過ぎた林道に車をデポし、沢に下降する。天気は良いようだ。沢はすぐに薄暗い廊下状となってくる。左岸の側壁からは15メートル、10メートルの滝が落ち、なかなかのスケールである。やがてプールのような大釜を持った小滝。左右の壁は立ち威圧感がある。ここは右岸のルンゼより高巻き落口に出た。
しばらく行くと取水堰堤が出てくるが、ここまでは平凡な渓相である。問題はここからである。発達した廊下帯が続きすばらしい遡行となってくる。60メートルの大淵を始めとして、淵を持った滝が続きへつりでかわしていく。やがて斜瀑3メートルの滝を越えると、沢は蛇のようにくねったゴルジュとなった。淵を挟んで5メートル、3段20メートルの堂々とした滝が落ちている。ここは左岸の踏み跡を巻いた。ここまでが前半の核心部といったところで、飛騨川支流の沢にあっては充分におつりがくるくらいの遡行価値がある沢といえる。
堰堤を過ぎると広い河原となり、沢は樹林帯の中を縫い、8時45分、小俣谷との二俣に出た。小滝がいくつか出てくるが、しばらくは単調なゴーロ歩きである。朽ちた軌道跡が沢の歴史を物語っているようで哀愁を誘う。林道を右岸高くに見た釜を持った8メートル滝で、2名の釣師と遭遇。一番会いたくない人種に会ってしまった。これにはがっかりである。それも釣師のうち1名は7月に徳河谷で会った兄ちゃんである。この兄ちゃんとは一昨年に御岳の与十郎谷でも会っている。この時は「先に譲れ、譲らない」でトラブルになりかけており、結果、彼らの跡をひょこひょこと付いて行くことになってしまったという苦い過去がある。3度も会う、それも奥飛騨の辺ぴな沢でということを考えると、僕らは案外ウマが合うのかもしれない。とりあえず、交渉をするが、結果的には先に入渓していた彼らの言い分を聞くことにし、我々は一旦林道に上がり、300メートル程先の15メートル滝から上に降りることで手を打った。
遡行が中途半端なものになったことについては不満が残るが、沢はそれを差し引いても充分楽しい遡行である。釜をもった10メートルの滝を越えると幅広のきれいなナメ床が出現。早速、童心に返ってのウォーター・スライダーを楽しむ。右にガレを見てナメ滝6メートルを過ぎると、沢は壁が立ち、堂々と水を落としている30メートルの直瀑となった。左右の壁はえぐれるように高く立っている。ここは、左岸の浮き石が詰まった樹林帯のガレから高巻くが、なかなか落口に出ることができず、結局、林道まで出て再度沢に下降することになった。沢は尚も釜をもった小滝が次々に出てくるが、いずれも直登できる。左右を30メートル以上の壁に阻まれた2段25メートルの滝を越えると、残念なことに堰堤が出てくる。せっかくここまで気分よく遡行してきたのに興ざめである。沢はすでに源流域となり、地図によると後2つ堰堤がでてくるのが分かる。相談の結果、とりあえず2段12メートルの滝を越え堰堤に出たところで遡行を打ち切ることにした。
下降は左岸についた林道を下るが、林道とは名ばかりの廃道となっており、ひたすらのやぶこぎを1時間ほど続け、やがて小俣谷にかかる橋に着いた。