乗鞍南面/飛騨川支流徳河谷

■01/07/14-15 前夜発      ■高橋/藤原・浅野・林正


今年は春先から乗鞍山麓をぶらぶらしている。御岳に代わる遡行エリアとして乗鞍は当然気になるし、なによりも女房の実家が朝日村にあることから、乗鞍南面にからそそぐ飛騨川の支流群が気になって仕方がなかった。6月に長倉本谷右俣を登り、少し期待外れであっただけに、この徳河谷には起死回生のホームランを飛ばすつもりだった。地図を見ると下流部は堰堤が続き、中流部でゴルジュ、二俣から上は乗鞍南面の千町ヶ原まで延びている。標高差も半端ではなく、どっちにしても骨が折れそうだ。メンバーも藤原・浅野・林正という願ってもないメンツが揃い(実はこのメンバー4人が揃ったのは今回が始めて)、完全遡行と必勝を期して山行が始まった。

7/14(晴れ)
一夜の宿にさせてもらった朝日ダムの東屋を後にする。発電所施設がある出合に駐車し遡行を開始する。しばらくは何も無いゴーロ。早朝から照りつける太陽に汗をかきながら歩く。うんざりするほど堰堤が出てくるが、これが全部で7つ。最後の堰堤を越えるとようやく両岸が狭まり、釜を持った小滝に阻まれる。左右の側壁は40〜50メートルもそそり立っており、巻くよりも泳いで突破した方が早そうだ。林がおもむろにザックからゴーグルを出し、クロールで泳ぎ出す。ザックをピストンして後続の3人が続く。そこからが徳河谷の核心部ともいうべき廊下帯となる。小滝と斜瀑が続くがいつずれもへつりや直登でかわしていける。

10メートルの斜瀑を越えると右岸は発達した側壁となり、15メートルの堂々とした滝を落としている。ここは左岸の側壁をフリーで斜上する。トップはザイルを出す様子もなくフリーで上がっていく。意外にしっかりしたホールドがあり、高度感を楽しみながら登る。落口に出る一歩がなんともいやらしく勇気がいるところだ。右岸にガレのルンゼを見ると今度は深い釜を持った5メートルの滝。左岸から簡単に巻けそうだが、ここは首まで釜に浸かって滝を直登する。ホールドが乏しいツルツルの岩にフリクションで這い上がり、シャワーを浴びて突破する。
その上はゴーロとなり、どうやら核心部は終わったようだ。左岸から落ちる30メートル美瀑を見ながら眩しいくらいに茂った広葉樹の森となった沢を歩く。するとそこでなんと二人の釣師と遭遇。私は気がつかなかったが、一昨年の秋に与十郎谷で会った釣師たちであった。あの時と同じように、譲れ、譲らないの悶着があり、結局午後2時までの一時間、我々が昼寝をして待つことにする。妥協案として釣れたイワナを2匹進呈してもらうことにした。
一時間後、釣師たちは約束通り我々に3匹(1匹多かった!)のイワナを譲ってくれ、何事も無かったかのようにあいさつを交わして別れた。一時間のロスを取り戻すようにピッチを上げる。釜をもった8メートル、斜瀑10メートルの連瀑は林・浅野ペアがザイルを使って直登、高橋・藤原ペアは右岸の側壁から高巻く。
すぐに左から枝沢が入り25メートルの直瀑が出てくるが、ここは右岸側壁すぐのルンゼより高巻く。やがて沢は平凡な渓相となってくる。問題になるところもなく16時を過ぎ二俣手前の段丘にタープを張った。

7/15(晴れ)
徳河谷は二俣から左俣と右俣(市右衛門谷)に別れる。藤原・林ペアが左俣へ、私と浅野ペアが右俣に入り、稜線(千町尾根)の避難小屋で合流することになった。どちらが当たりか、それともどちらもハズレか気になるところだが、この時点では地図に滝記号が記されている右俣の方が期待できると思っていた(左俣パーティの話を後から聞いてがっかり…)
右俣は7メートルの階段状の滝を越えるとナメ床となり、右に少し曲がると二段25メートルの直瀑となる。飛沫を落とす申し分のない美瀑である。「おおっ、これは当たりだ!」これを見ただけでもこっち(右俣)の方が当たりのはずだ。この滝は左岸の階段状の壁を中段まで登り、ザイルを出しハーケン2本打って越える。落ち口は微妙なホールドとシャワーになり、なかなかしょっぱいところだった。大滝から上は苔がついた小滝と釜が続き美しい渓相となった。やがて1対2の二俣となるが、ここからがナメ滝とナメ床の連続となり、思わず「やったー、当たりだー!」である。しかし、喜びもつかの間で沢どんどんは高度を上げ、やがて樹林帯の中に消えてしまった。そこから55分の薮こぎとなり10時55分、登山道に飛び出した。出発時の約束で避難小屋で合流する予定であったが、すでに登り返す気持ちが失せ、そのままコーヒーなんぞ沸かしながらのんびりと過ごす。12時30分の交信でようやく左俣パーティのコールが入り、彼らには心配をかけてしまったが小屋で合流できなかったことをわび、きっと憤慨して下りてくるだろうと思いながら雲行きが怪しくなった空を見上げ彼らを待った。    [高橋   記]


<タイム>

7/14 徳河谷出合8:10 最後の堰堤9:50 廊下帯入口の釜10:00 15メートル滝11:20 二俣16:20
7/15 出発6:50 2段25メートル滝7:05 奥の二俣8:35 登山道10:55

[左俣]
15日[晴/曇]4時40分頃、辺りはもう明るい。焚火は消えていたが、わずかに熾きが残っていた。小枝をかき集めてきて焚火を起こす。もう起床予定時間の5時を過ぎているが、残りの3人は一向に起きる気配がない。ったく!もう…我慢できずに寝ぼすけ3人組を起こす。

「二俣から上を左俣・右俣の2チームに分けよう」と提案した時点から、多分こうなるだろうと予想していたが、この日のチーム分けは高橋−浅野ペアと藤原−林ペアということになった。もっとも計画書の装備分担でこのチーム分けは示唆されていたのだが。高橋−浅野ペアが右俣の市右衛門谷を選んだため、藤原−林ペアは左俣の本谷に入る。地形図からは左俣の方が、等高線が詰まっていて面白いかなと思われたが、このときはまだ4時間もあれば稜線へ抜けられるだろうとタカをくくっていた。10時半から1時間毎に交信することと、稜線上にある千町ヶ原避難小屋で集中する約束を交わして右俣ペアと別れる。
左俣に入ると、まもなく滝場が連続し、藤原さんと共に歓声を上げる。「こっちはアタリだ!向こうはハズレか!?」右岸から2段20mの滝が出合ってくる辺りで上部を見上げると、右岸側には高さ50〜100m級の柱状節理の岩壁帯が続いており、なかなかの絶景だ。左俣はこの岩壁帯のどこかに吸い込まれているはずだ。とんでもない大滝が現れるのではないかと、不安と期待が交錯する。
やがて谷が左に屈曲するところで大滝が姿を現す。近付いてみると、遠くから見たときほどの大きさはなく、滝芯自体の落差は30mそこそこで、ちょっと大滝と呼ぶには無理があるか。しかし、岩壁帯の中を穿つように水飛沫を散らし、流水を落としている様はなかなかの迫力だ。水流通しに行けるだろうか?黒光りする柱状節理の滝芯は「巨人の階段」状で、もしかしたら直登できるかもしれないが、途中で進退窮まってしまう可能性も高い。我々の目に弱点と映ったのは、左岸樹林帯の中間バンドから草付の中の露岩を拾って直上し、最後は水流右から落口に至るというルートだ。中間バンドでアンザイレンし、リードさせてもらう。取り付いてみると、下から見るより壁の傾斜が強く、エイリアンや頼りない潅木、髭ブッシュ、ハーケンで慎重にプロテクションを取りながら直上し、無事落口に到達。登れてよかった!中間部の潅木の生えた垂直段差の乗っ越しが一番ドキドキした。フォローの藤原さんが登り始め、ロープを手繰っていくが、2回ほどえらく長い停止がある。一体どうしたというのだ?ようやく登ってきたかと思うと、エイリアンとハーケンの回収が困難で、いろいろ努力したが、2つとも結局回収できなかったという。まさか、こんなところで残置してしまうとは!勿体無いという気持ちと、異物を遺してしまい恥ずかしいという気持ちが交錯する。懸垂で降りて回収しようという考えもよぎったが、またあそこを登り返す気もしないし、藤原さんが長時間かけてダメだったのだから、回収できる可能性は低いと考え、諦める。再登する人がいれば、回収できないとしても除去してほしい。高橋さん、浅野さん、よろしく。
この先も30mと25mのナメ滝など美しくかつ直登できる滝場が続き、カメラがないのが非常に悔やまれる。2段15m滝を越えた先のナメ床帯で一休み。「いやー、これはなかなか凄いところですよ」と2人で喜び合う。「右俣もひょっとしたらアタリかもしれないですよ。こっちの方が凄かったとお互いに自慢しあうかも。でも、こっちは大アタリなんですよね」苔むしたナメの先はゴーロになるが、日本庭園のような趣があり、ただのゴーロでは終わらない。さらに谷が大きく屈曲した先では、なんと!この期に及んで5段50mと30mのナメ滝が姿を現し、もう小躍りするしかない!おっと、もうすぐ11時ではないか!急がねば…11時半の交信までに稜線に出ておきたいと気持ちは急くが、72kgにもなった体重に足取りは重く、稜線手前で時間となる。交信を試みるが、右俣ペアの声が入ってこない。こんな源流部で聞こえないなんて…谷の中では無線機は役立たずということか。何度か伏流となり、ついに水が涸れたが、沢形が続いており、ほとんど藪漕ぎなしで稜線の登山道に飛び出す。しばらくの登りで草原に囲まれた千町ヶ原避難小屋へ。何人もの登山者の中に、右俣ペアの姿を捜したが、姿が見えない!おいおい、これは一体どういうことだ?右俣の方が短く、水線はダイレクトに小屋の辺りまで延びているはずだ。地形図から予想される渓相からもそれほど困難ではないと思ったが…

12時半の交信で浅野さんの声が返ってきた。なんのことはない、下の方の登山道に出て、小屋まで登らずに待っていたと、言うではないか!小屋で集中するって決めたのに…藤原さんと2人憤慨しつつ下山を開始する。20分ほど下りた所で、右俣ペアと合流する。右俣の様子を聞くと、滝記号の部分に立派な滝があり、それなりに良かったようだ。全てを聞いた後、藤原さんが「で、それだけ?」と念を押し、左俣の自慢演説が始まったのは言うまでもない。次に入渓される方は、次々と現れる立派な滝達と優しげなナメ達をぜひカメラに収めてほしい。本谷下部の(堰堤連続のゴーロ帯はウンザリだが)泳ぎや個性的な小滝達、本谷上部(左俣)の連バク帯…期待を大きく上回る秀渓であった。
[林正 記]

〈タイム〉
7/15徳河谷二俣(6:50)1750m付近のナメ床帯(9:00〜20)稜線(11:55)千町ヶ原避難小屋(12:05〜40)

 

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