八ヶ月ものあいだ山から遠ざかっていたので、この週末はリハビリのハイキングを計画していた。が、山スキー部の金子さんが、この時期には珍しく沢に行くというので同行することにした。鈴鹿の滝洞谷。返事をした後にネットで調べると鈴鹿最悪の谷とか5級とか4級とか書いてある。やばいぞ、これは何も知らずに利根川源流について行って、撤退したときの二の舞か?

前夜の四日市の中畑邸での宴会に大量の酒とおつまみが持ち込まれ、山行が中止になってしまうのではないかと危惧された。が、すんでのところで歯止めがかかったようで、なんとか早朝出発することができた。天気予報では午後から雨らしい。ゴルジュを抜けるまで持ちこたえて欲しいものだ。それにしてもKさん、近づくと酒臭い。
大君ヶ畑の墓地に車を止めると、沢はすっかり干上がっていた。堰堤を越えて河床をしばらく歩くと、谷はゴルジュの様相を呈してきた。しょっぱなの2m滝を右岸から巻くと懸垂を余儀なくされた。
第一のアトラクションの洞窟ゴルジュは左岸がハングしていて、岩は水流で磨かれていてスベスベ。水が流れていないのが救い。朝賀さんがアブミを架け替えながら左岸をリードする。残りの4人は上から確保してもらいながら、もう一本のフィックスロープをゴボウしながら登る。足元が滑りっぱなしで、腕力だけで登ったのでいきなり腕がパンプしてしまった。先が思いやられる。いやぁ朝賀さん、こんなところをよくリードしたものだ。
そのすぐ上のCS滝は金子さんがアブミをかけてくれたのだが、うまく乗り込めず、また右足を高く上げたら攣りそうになり、お助け紐まで出してもらう始末。

続く井戸底ゴルジュの下部の滝壺には流木が突き刺さっていて、ステップ代わりになっていた。ここもエースの朝賀さんがリードする。カムに合うクラックがなく苦労しているようだ。ビューンと音がした後に小石が飛び込んできた。どうやら猿が石を投げてきたようだ。あれに当たっていたらタダでは済まない。朝賀さんは一旦降りて空身になり、一服した後に再挑戦。みごとに抜ける。小山さんは朝賀さんのザックも背負って登ってしまった。時間短縮のため上からもう一本ロープを出し、4人目と5人目は同時に登った。半分引っ張りあげてもらった感だ。
登りきると金子さんはそのすぐ上の滝の右岸カンテにルート工作をしていた。リスが浅く、ハーケンが入っていかないらしい。金子さんがアブミをかけた後はリードを朝賀さんと交代した。空身の朝賀さんがアブミを架け替えながら登る。見えてそうもないのにビレイしている小山さんから的確な指示が出る。この人は何者だ。
ハーケンを連打する音が井戸底に反響し共鳴していた。日陰の岩からの冷輻射で体が冷えて震えてきた。手持ち無沙汰の木下さんはハーケンを打つ練習をしている。一方の朝賀さんは持ち前の粘りでついに登りきった。二番手の木下さんがアブミに手をかけた後、「あっ、触っちゃった。」とのたまった。いいんです。ここは沢です。フリーじゃありません。是非それを掴んで登ってください。木下さんがお疲れの朝賀さんと交代してビレイヤーとして、残りの人を引き上げた。短い区間だが沢山のハーケンを打ち、ナッツまで使ったので回収にも時間がかかるのだなぁ。
どの記録を見ても鹿の死体があったと書いてあった。それと同じものとは思わないが、やはり鹿の死体があった。近くには毛の混じった熊の糞もあったから、この熊はしばしここに通ったのだろう。
ここ一週間以上雨は降っていないので、次の5m滝も水が流れていない。ここは金子さんが右岸からランニングを取らずに登った。ロープがあると実に安心して登れる。

本日最後のアトラクションの三段25m滝に到着。下段は空身で金子さんがリードした。カムが決まらなく苦労している。落ち口に上がるとその上は樋状になっていた。水があったら確実に足元をすくわれそうだ。小山さんがハーケンを打とうと試みるが、ずり落ちてくる。このまま団子状になってウォータースライダーを落下しそうだ。結局朝賀さんのフィックスロープを頼りにゴボウで登った。
最後に釜に水を張った2m滝が現れた。金子さんが「パンツが濡れる!」と興奮しながら、フックにアブミをかけ、じんわりと乗越した。小山さんのときにフックがはずれ、水の中にドボン。朝賀さんのお助け紐にアブミをかけ、引き上げてもらう。続く僕の番。ビレイもとらずにお助け紐を垂らす朝賀さんとの体重差を考え、「大丈夫?」と聞くと「大丈夫。」と返事が返ってくる。それでは遠慮なくとアブミに乗り込むとじわじわと下がっていき、水没。「重いですね〜。」と朝賀さん。そうです。こんな重たい体を持ち上げていつも登っているのです。大変でしょう。
ここを抜けると谷は穏やかになった。山菜はないものかと見回しながら進むも、春の息吹を感じられない。そしてわれわれがアトラクションを終えるのを待っていたかのように雨が降り出した。しばらく進みと脇に雪渓が現れた。どおりで水が冷たいわけだ。沢には水がチロチロと流れるようになり、これでようやく「沢登り」と呼べるものになった。今回結局フラットソールの出番はなかった。
左岸の820mを目指し斜面を登る。当初は足慣らしハイキングを予定していた体なのでこたえる。しかし還暦間近の小山さんがぴったりとついてくるので、ここで遅れをとるわけにはいかない。30分登ると、尾根の反対側は杉と檜のうっそうとした植林となっていた。
下山は尾根伝いで戻るが、少しガスっているのと常緑樹のおかげで遠くまでの見通しが効かない。700mの尾根の二股で右をとるとゴルジュに戻ってしまうので、本能の金子さんは尾根の左斜面をトラバース気味に降り、650m地点の鉄塔を見つけた。降りるべき尾根を確認できたが、この尾根を最後まで行くと、これもゴルジュにもどってしまうので、あとはコンパスの示す方向に下っていき、出発地点の堰堤にどんぴしゃで降り立った。昨夜の宴会でコンパスを使えないとカミングアウトをした朝賀さんが、出発点の堰堤にどんぴしゃで降り立ったことに驚いていた。はっはっは、ルートファインディングも楽しいよ。