
車止めのブナオ峠から舗装された林道を下り、着いた不動滝谷の流れは細かった。足回りを沢の装備に履き替え、いざ入渓。右からの支流を見やったところで浅野さんから魚類生息調査を依頼された。こんな朝早くから夕御飯を背負って歩くのはいやだなと思ったが、調査だけだからと諭された。山菜を探す二人を尻目に先行して竿を振るが、反応はない。それ以前にフライを落としたくなるようなポイントがない。40分ほどやっただろうか、手を使って登らなくてはいけない3m滝が現れたところで竿を納めて、調査を終了した。報告、ここには魚はいません。練習の意味合いでこの滝でロープを出して、ビレイを勤めた。
その後ものんびりと山菜を取りながら進んだ。カタクリ、ニリンソウ、ショウジョウバカマが咲き誇っていた。1050mくらいから雪渓が現れ始めた。雪渓の高さが低いため、乗り降りはそんなに大変ではなかったが、その分薄いため、踏み抜くのではないかとヒヤヒヤした。なんといっても三人中で一番重いのは僕だ。
標高を上げるに従い、雪渓が繋がるようになって、一度に距離を稼げるようになった。登山道が近く、声が聞こえてきた。オーイと呼んでいるが、遭難していると思われたのだろうか。雪渓から上がる冷気で付近はモヤがかかっていた。少し勾配がきつくなったところで最後尾の僕がスリップした。すぐにバイルを立てたが、柔らかい雪にバイルはスッと切れるように流れていった。もう一度刺し直して、15m程下の勾配の変化点で止まった。冬山はやっていないけれど、今度雪上訓練くらいはしておこうか。
大門山への分岐道のコルに出た。向かいのイワト谷を下降するのだが、雪渓を下降するのは初めてで、というか沢靴で普通ありえへんやろ。さっき滑落したときは落ちる先の地形が分かっていたが、下降では未知の世界へ滑っていくことになる。精神的によろしくない。実際少し下ってみると、これがとてもいやらしい。笹を手がかりにしていたが、笹が切れたところで沢筋を諦め、藪を漕いで一旦登り、すぐ右の小さな尾根を下った。
右から一本入ってくるところでまた沢に降り立った。二段の滝の上段を降りたものの、下段が降りられず、これまた懸垂かなと思ったら、浅野さんは左岸から巻きに入った。さすが三本足。しかしこのザレのルンゼは二足歩行の僕にはいやらしく、落石のシャワーを伊藤さんに浴びせてしまった。
そうこうするうちにいい時間になってしまったので、幕場を探しながら下り、シンノ谷の一本手前で左から入る支流の出合の下にそこそこのスペースを見つけた。薪を集めた後、下流に向かって魚類生息調査をするが、すぐに雪渓に行く手を塞がれた。釣り下るのは苦手なので引き返すと、支流を攻めてこいと指示が出た。しかしそこも全く反応なし。今日の塩焼きはありません。幕場にちょうどシラカバの大木が倒れていたので、皮をはがして、着火材に使った。薪が乾いていていい焚き火になったのと、山菜の天ぷらがおいしかったので、僕としてはそれで十分だった。

幕場から10分も下るとシンノ谷出合だった。僕は気づかなかったが、その間にもっと広い幕場適地があったらしい。出合からすぐに5m二条の滝があり、そのすぐ上の5m滝はロープを出して右岸から高巻いた。雪渓の下をくぐる、直登できそうな4m滝は、釜の水深が腰くらいありそうだった。朝早くから濡れる気にならなかったので、雪渓の上に登ることにした。が、取り付きで雪渓が崩れ、伊藤さんがはまっていた。
この後もロープを出すことなく、難所もなく、低い滝を直登し、雪渓の上を歩き、巻き、山菜を探しながら標高を伸ばしていった。するとまだ新しそうなクマの糞に遭遇した。クマも山菜を食べているようで、糞は緑がかっていた。このあとしばらく笛を吹きながら歩くが、沢が一面雪渓で覆われるようになってからはクマの心配も忘れた。
谷が大きく右に折れたあとの最後の二俣で一服し、水筒を満タンにした。ここで右をとれば、双耳峰の見越山のコルを詰めることができるが、雪渓の勾配がきつくてエスケープを求めたくなった時に打つ手がない。そこで左を選ぶつもりだったが、見える範囲ですでに十分勾配がきつくなっていたので、さらに左の、見越山南東のコルを目指した。時間的に余裕があったので、ここでもまだ山菜を取っていたらあっという間に時は過ぎ、集中時刻が近づいていた。慌てて登山道を進み、荷物をデポして身軽になり、集中時刻15分前に到着した。めでたし、めでたし。