一度は行っておきたかった朝日の険谷。課題は軽量化。2日分は現地調達とし、予備日を入れて3泊分の荷物。といっても予備日を入れると5泊。それなりの重さになってしまった。毛無沢はネットで検索しても情報がない。人が通過できるのだろうかという不安もあったが、登山大系に報告があるわけだからまぁなんとかなろうとのんびり構えた。
草津田上IC外で中村さんと16時待ち合わせ。前日まで雨。ようやく回復した天気に安心。山形を目指す。小国の道の駅で車中泊。明日からビールともお別れだ。
大石橋終点に移動し、身支度を整える。アブがうるさいが、たいした量ではない。河原ではアブがどこからともなく湧いてくるが、ネットを出すほどでもない。明け切らない梅雨でアブも活性しきれないのだろう。
泳がされたゴルジュは雪渓の存在を思わせ、とにかく冷たい。雪渓の残滓を越えたところで毛無沢出合。どんな沢か、楽しみ。出合の10m滝は巻くしかなく、左岸から小さく巻き、落ち口に出る。少し進むと沢は一気に側壁が立ち、暗い沢床を這い回ることになる。雪国の厳しい渓だ。暗く、雪渓からの風は寒い。直瀑には雪渓が覆い、先は見通せない。おそらく通過できまいが、小滝を越えて奥に進む。荷物がしんどい。雪渓奥は薄明るいが、とうてい這い上がれるとは思えない。雪渓下の泥壁登攀という狂気の沙汰はパスをして、手前の左岸に活路を求める。雪渓が消えたばかりのつるつるの側壁に泥が乗っている。雨で流され切ってない。ザックをおいて、20mの補助ロープで登る。フリーチックなきわどい登りもあったが、雪国の側壁としては常識的悪さ。直上したミニテラスでピッチを切り、トラバース。簡単そうだが、泥草のクリーニングもあるので、重いザックを置く。雪渓の足が乗るテラスでピッチを切る。そこから草の生い茂るところまで少しイヤらしい。慎重派の中村さんの求めに応じて、ロープを出す。落ちたら雪渓脇に人間くさびだ。
左岸をトラバースし、雪渓に乗る。右俣出合で雪渓は大きく口を開け、見上げる本谷も雪渓が寸断。これを行くとなると巻きもかなり大変なものと思われた。
予定通り右俣に入る。雪渓に取り囲まれた出合の滝を少し高巻くと右俣の連瀑が姿を現す。下部の一部は登れそうだが、時間を考えると高巻きの登下降を繰り返す場合ではなさそうだ。荷物も重い。下部の100m近くの連瀑帯は一気に巻くことにする。この連瀑を登るなら、それを目的として軽量化をして来ねばなるまい。入山初日の我々には藪こぎさえも十分きつく、重いザックに消耗。連瀑の上に降り立ち、一息入れる。
上は小滝群となり、おおむね直登。10m,15mの連瀑を巻く頃には16時になり、幕場探しを始めるが、雪渓からの吹き下ろしが冷たく、とても泊まる気になれない。幕場を求めて遡行を続ける。奥の二俣だ。
厳しい側壁をはい上がれば、対岸の左岸にも幕場候補の小台地がありそうだったが、湿地ぽい窪地に見えたし、中村さんが落とし物をし、探すのを待つにも頃合いの二俣の上流側の付け根で幕にした。冷気は来ない。登ってきた沢を見下ろすいいロケーションだが、あいにくの傾斜地。寝るにはかなりの矯正が要った。周辺で薪を拾い集め、形ばかりのたき火を起こし、ブヨを追い払う。ミルクティーで暖まった頃、雨が降り始める。悪く転んだ天気予報を恨んでも仕方なく、ツエルトに逃げ込むが、雨がけっこう降ってくる。微調整を繰り返し、何とか寝っころべる安定体勢になる。
カプセルにはまったような寝床では寝返りも打てない。目が覚めるたびに雨音が気になる。朝に起きた時、雨音はなかった。ちらりと見えた晴れ間に期待しつつ、袖朝日岳の鞍部を目指す。稜線についた頃、ガスから雨。天気の悪化を心配し、携帯で概況をつかむ。回復傾向とのことで一安心。読図もうまくいき、予定通り下降を始める。計画は右岸支流のシミズ沢を下る予定だったが、下降とともにガスも晴れ、自分たちの位置もかなり正確に読めてきたので、より下りやすそうなもう一つ下流側の小さな沢を目指した。枯れ沢で予定より早くつくかと思いきや、逆に流れがない沢は涼味に乏しく、暑くてペースが落ちる。気づけば夏空に暑い日差し。梅雨明けを思わせる。畑沢出合で今夜のおかずに竿を出すが、見向きもしてくれない。トンボには食いつくようで、つたない釣技は時間を浪費するだけだった。
岩井又川の本流出合を50m下がった中州で幕とする。雨は降るまい。星空に安心したのか、早々と眠気が襲い、就寝。ツエルト内で蚊対策の隅にスプレーしておくアースの商品は有効だった。手放せそうにない。岩井又のイワナを2日分、食料として当て込んでいたが、貧果で当てが外れる。非常食を繰り上げ。
今日からガッコ沢だ。その前に岩井又川本流ゴルジュがある。全く意識してなかったが、"岩"井又を感じる。好ましい谷。右岸の支流をいくつか見送り、いよいよガッコ沢というところで雪渓が出てきた。雪渓下はゴルジュと滝。雪渓下の右のリッジから雪渓脇に登る。雪渓に一度はのり、下降点を求めたが、雪渓右脇を突っ張りで進めば雪渓の向こうにうまく降りられた。ガッコ沢は目の前だった。ガッコ沢出合に威圧感はない。むしろ本流が威圧感たっぷり。
出合で休憩。出合の滝6mは右の壁を利用すればフリーで越えられそうだ。そう難しくはなく、うまくバンドに乗り、滝の落ち口に至る。
上は小滝だが支流と軽んじられないしっかりした流れ。小滝を曲がった向こうは2m滝に流勢のきつい淵。泳いでも半分ぐらいで押し戻される。雪渓から流れ出している釜に無駄と思える再トライをする余力も蛮勇もない。左岸は垂壁。活路は右岸しかなく、4mほど上のミニバンドに上がる。2人立つのが精一杯。もう一段上がろうと試登したが、ツルツルでかなり悪い。白泡の淵に平行した外傾バンドなら越えられるかもしれない。落ちても4m下にドポンだと思うと気は楽だ。先はわからないがやるしかない。空身でランニングを丁寧に取りながら進む。難所に思えた張り出しを無事越える。うれしいことに滝の落ち口にも楽に降りられそうだ。ザックを取りに戻り、この難所を抜けた。沢は右に曲がったところで通らずの滝10m。右岸を巻き降りると小さな河原に出た。浅野Pが泊まった幕場なのだろう。まだ午前中。時間はたっぷりある。先の3段18m滝は滝の基部を横切り、取り付く。フリーで中段まで上がってザックを置く。そこでロープを付けて右岸に渡り、滝の落ち口へ抜けた。左に曲がった上は暗く長細い暗峡のプール。奥は釜に落ちる直瀑。左岸のルンゼを上がり、トラバースラインのテラスに移ったところからロープを付ける。草付きバンドをしばらくたどるが、トラバース通しは厳しそうで、戻って小さな凹角から一段上がる。ロープの流れが悪くなり、短めでピッチを切る。次のピッチもラインが曲がり、ロープが重くなる。先の見通せない高巻きといえども、もう少し配慮のしようはあった。3ピッチ目は草付き中心のトラバースライン。顕著なルンゼでピッチを切る。ノドがカラカラだ。わずかな流れがありがたい。足下は45mのスラブ滝。ここで時間は14時を回っていた。もう少し行けば、河原の幕場があるようだ。数年前、浅野Pはつっこんでいるようだが、ここは左岸の巻きを選択。ピッチを切ったルンゼを登り、トラバース。弧を描くようなラインをたどり、落ち口に達する。10M懸垂で沢に降りるが、すぐ上は滝で通れない。ロープをたどって、登り返す。さらにトラバース。上から見下ろすトイ18mは水流きつく、中に入り込めそうもない。さらに右岸を巻く。先は一気に険悪になってくる。先のトラバースラインには大きなルンゼが入っており、巻くのも降りるのも大変そう。少し戻って懸垂地点を探す。浅野Pが泊まった河原なのか、貴重な河原が見える。上から見下ろす常で、50mでも足りそうには見えないが、やはり短めの35mで沢床に降りた。こんなところで懸垂ロープを平気で抜けるのも、先人が通過していればこそだ。岩の鎧と城壁で構成された先はただごとではない。初登者にただただ敬服。
2m滝の向こうで谷は90度以上の角度で左、右と屈曲しているのがわかる。上の大きなルンゼで薪を余るほど集めた。
朝、激しく屈曲を繰り返す地点まで様子を見に行く。寡雪のせいだろう、雪渓は大きく後退し、屈曲部の全貌をさらしていた。岩盤を削った流れは、日本刀を荒く削りあげたようなリッジの奥で垂下していた。
セオリー通り小さく巻くルートを行くべく、昨日、薪を拾い集めた大きなルンゼに戻る。ルンゼにそびえる壁の弱点を探す。左上する草付きバンドにロープを伸ばす。一段上の壁の基部を右上し、どん詰まりでピッチを切る。そこから再び左上するバンドを進む。灌木も多く、安心。15mも進んだか、先は厳しそうなので、かぶり気味のコーナーを垂直木登りで越える。外のスタンスが使えなければ厳しかろう。上の灌木帯でピッチを切る。雨が激しくなってきた。灌木帯でロープを納める。トラバース後、クライムダウンで沢に戻る。沢に降りた頃には雨はやんでいた。すぐ雪渓。中間部が切れていて、最悪の高巻きを覚悟したが、裂け目を全身突っ張りで右岸から左岸に突き進めば乗り移れた。すぐに雪渓に乗り直す。雪渓末端で悪く切れており、埋木懸垂。埋木懸垂はいきなり空中懸垂という厳しい場合も多いが、今回は3mほど下で雪渓の端が側壁に接しており、そこでワンクッション後の空中懸垂となっていた。中村さんに先に降りてもらう。下降点は見えない埋木懸垂のプレッシャーはきついものだったろう。降りはじめで、バランスを崩し、埋木が外れかかるが、私が両足でスタカット風に踏んづけて置いたのでことなきを得た。無事着床。俺の埋木を踏んづけてくれるものはいない。危険を感じた中村さんが、できるだけ高い位置にハーケンで支点を作り、私の危急に備えた。下の状況がつかめたので、ザックをおろし、空身となる。埋木に妙な荷重をかけないように、慎重に慎重に体重をかけていく。シリンゲが雪面に付けた溝にしっかり食い込んでいくのを確認してから空中懸垂に入った。無事、沢に降り立ち、雪渓の舌端から逃げる。次は開放的な45m滝。左岸を直登し、続く5mは渋い高巻き。その先で沢は一気に険悪になる。岩盤むき出しのリッジが幾重にも重なり、そのリッジの上にピナクルがそびえている。かかったガスが、ガッコ沢二俣の険悪さをいっそう醸し出していた。
大きめの釜をたたえた4m。左曲したさらに奥に滝が垂下してそうだ。戻って大きく巻くより、流れ脇の右岸凹角を選んだ。抜け口直下はかぶっていそうだが、まあ、ホールドもありそうだし何とかなるだろう。空身で右岸手前から右斜上して、凹角に入る。しっかりした支点も取れ、安心して大胆な動きで越える。乗っ越した上は薄い草付き。慎重にテラスに上がる。予想以上の大きなテラスだ。真上の草付きを越え、二俣合流地点が見えるところに出た。クライムダウンは無理。懸垂しかないなと見やると、1本だけか細い灌木がある。根本をかき分けると必然の残置シュリンゲがあった。
降り立った二俣は雪渓の詰まった左俣からの吹き下ろしが寒い。感慨に浸るまもなく、右俣に逃げ入る。奥は大伽藍。右奥はルンゼが壁となって立ち上がり、空に吸い込まれるように消えている。沢は大きく左曲してるのだろうか、流れが消えて見えない。袋小路の谷底から出口のふさがれた巨大迷路に突き進むようだ。進むべき方向が目視できない上に、この大障壁の谷底。徐々にプレッシャーが増してくる。手前の滝は左岸のルンゼからあっさり巻く。
円形大劇場の底に立つと、左を向くと行くべき滝の様子が見えた。いろいろルートがありそうだ。一番滝近くのルートが楽そう。ザックをつけたまま、ホールドの豊富な左上バンドを上がる。バンドの頂点で乗っ越すルートを確認する。手前は白い花崗岩の磨かれたスラブ。その先は壁。少しかぶっている感じだ。ロープを付けて、とりあえずザックを背負ったまま壁の基部に入り込む。念のためザックを置き、左に少し寄ったところから直上。いいところに残置がある。A1かもしれないが、外のスタンスを使うと抜けられた。次から次へとよくもこういう登りが出てくるものだ。
いくつかの小滝を越えると釜をたたえた3mCSの向こうに雪渓がかかっている。その雪渓の薄く、50cmのつながりしかないところがあり、午後の今、潜るのは正気じゃない。左岸のルンゼに巻きを求めた。ルンゼのどん詰まりは壁が立っていたので、少し降りてブッシュをつないで灌木帯に入る。トラバースから直上して巻き降りると、沢は一気に開放的になってくる。左岸は低く、威圧感も薄れ、午後の日差しが心地いい。40m滝はホールドが多く、右岸を通過。屈曲を繰り返すと末広がりの25m。空が大きく広がる。険難のガッコ沢も終わりなのだろうか。25mを左岸から越え、左に曲がると、沢の奥に穏やかな稜線が見えた。びっしりと覆った雪渓で寝るのは避けたい。ザックをおろす。雪渓からダイレクトに冷気が流れ込んでくる。ツエルトのフライを冷気の防止で張り、快適な幕場となる。稜線も近いせいだろう、薪はかなり乏しかったが、朝晩の煮炊きには十分な量が取れた。芋焼酎がうまかった。
今日の長くなりそうだ。快晴の日が差し始める前に、幕場を出る。三俣で右の本流に進路を取りる。ゴルジュは相変わらず続くが、手の付けられないものが多い。下山を考え、奥の二俣から、鞍部を目指す。読図通り稜線に出て、安全圏に入った旨を留守宅の浅野さんに連絡をする。携帯ってのは便利なもんだ。快適な稜線漫歩。稜線の左右に刻む沢に思いをはせながら、大朝日岳を越える。午後となった日差しは厳しく、疲労の色も濃い。13時間労働の末、車の待つ大石橋についた。