飛越トンネルは遠かった。18時に名古屋インターを出発して、途中合流の手間はあったものの余裕で前泊地に着く心積もりだったのが、林道が思いの外長く、私の慎重すぎるノロノロ運転も手伝ってトンネル前に着いたのが23時になりかかろうとしている時間だった。駐車場は広く、車は数台停まっているだけ。手早く前泊用のテントを設営していると、一人の登山者がその横を通った。自分達と同じく今夜を登山口で過ごす人だろうとあまり気を留めなかったが、その人の姿はそれきり見えなくなった。テントでは食べそびれた夕食のみそカツ弁当を平らげてすぐに寝た。月が明るい夜だった。
4時30分起床。起きるなりカレーヌードルを食べる。食べたがすぐに気分が悪くなり全部吐きだした。身体は正直だ。無茶な献立ぶりが我ながら笑える。5:45入山。榊原さんトップで、次がリハビリ中(?)の浅野さん、自分の順で進む。歩きだして5分もすると遙か下界に雲海が広がっているのが見えた。登り始めからなんと贅沢なコースだろう。天気がすこぶる良い。これは期待できそうだ。
登山路はなだらかでよく踏まれており非常に歩きやすいのだが、土壌の性質のせいかぬかるんだ場所が多いのには閉口した。それは飛越新道を過ぎて神岡新道に合流してからさらに顕著になった。良く見れば池塘が点在するような地質なのだ。こういう場合、水たまりを避けて踏み跡を外して歩きたいが、これは自然へのダメージが大きい。逆に堂々と水たまりを踏みしめても、柔らかい土壌をさらに掘り返す作用が有りそうで、結果良くないのじゃないかと思う。逡巡しながらそれでもどんどん進んだ。8:40寺地山山頂で休憩。展望スポットでは北に薬師岳の巨体。その向こうに劔岳と思しきピークを確認した・・(自信無し)。やがて森林限界を過ぎ、頂上まで遮るものの無い風景に出会う。北アルプスに来たのだなぁとしみじみと思う。何年ぶりだろうか。
木道の周囲では見事な池塘が楽園のように美しい。明るい太陽の下、緑が眩しい。数人の下山者とすれ違った。這松帯に入ってまもなくすると稜線に出た。「全部見える!!」榊原さんが感嘆の声を上げた。正面の水晶岳から左右に広がる尾根、雲ノ平、黒部源流に至る谷の窪みまでくっきり見える。山は今年も待ってくれていた、と思った。意気揚々と集中場所の北ノ俣岳頂上に到着。集中予定時間の5分前だった。
下山はあっという間だった。途中から沢泊まりは初めてだったという深澤さんを加え4人で淡々と下降していった。
あとで聞いた話によると、昨晩同じルートを夜通し歩いて黒部五郎岳で日の出を見て帰っていった人がいたらしい。とすると暗闇ですれ違ったアノ人だったのか。人それぞれ、色んな「山」があるもんだなぁ、と思った。