新潟北部/荒川女川〜藤沢川下降

■02/08/10-12  ■藤原/林禎・中井・藤澤・竹中  ■藤原(記)


 以前「山渓」の沢特集で女川のブナ林がすばらしいという記事があり、他の人が知名度の高い沢ばかり挙げているのに一人だけまったく知らない沢を推薦しているので、それ以来さぞ素晴らしい沢なのだろうと思い、女川はずっと気になる存在となっていた。まず、女川というのがどこにあるのかさえわからないので、推薦した人が新潟の人だったので新潟の地図を眺めていると、新潟北部荒川の支流に女川はあった。ここは飯豊・朝日連峰に挟まれており、東に行けば吾妻連峰が近い。これで夏合宿のプランは決まった。以前から気になっていたふたつの山域である女川と吾妻の沢を組み合わせれば完璧なプランとなるはずだった。 合宿の前半だけ林さんと藤澤さんが参加することになる。

前夜のうちに車2台で高速を新潟の聖露新発田IC(終点)まで飛ばし、関川村の道の駅に着き(4:30)仮眠をとる。ここは広い芝生があり人もまばらでくつろぐにはよい所である。

◆8/10 晴れ

まず下山予定地の藤沢川の林道に車をデポする。林道の終点より少し手前にゲートがある。藤沢川の流れを見ていると、この沢は本当に遡行する価値があるのだろうかという疑問を抱かざるをえないほどしょぼいもので、この山域を選んだのがそもそも間違いなのではという気さえしてくる。女川の流れはそこそこなのが救いだが、とにかくこの山域は知られていないのだ。出発直前に藤澤さんが資料を入手してくれたので飛びついて読んでみたのだが、たくさんある記録を読んでも坦々とした記述からはなかなか沢のイメージを膨らませることができない。単純にいい沢なのかどうなのかということも判断しかねるのである。

女川林道に車を向けると、終点よりずいぶん手前にゲートがありがっかりさせられる(地図に橋記号のある所)。林道終点まで歩くことにするが、照りつける真夏の太陽と強烈な照り返し、おまけに風はそよとも吹かず暑いのなんの堪らない。熱射病で倒れそうになりながらの死の行進が続く。沢に着ながら水に浸かれないというのはなんとも理不尽で歯がゆいが、堰堤ばかりだから仕方がない。

林道終点近くのトンネルを抜けたところから、たまらず沢に飛び込む。ここにはなぜか異様なイデタチで川の虫か何かを捕まえている人たちがおり、我々と鉢合わせという格好になる。沢を歩き始めるとすぐに誰もが大量のアブに取り付かれる。いきなりの襲来に半狂乱になりそうになるが、これはあきらめるしかないということがわかってくる。ゴロちゃんなどは防虫ネットまでかぶっての防御体制をとっているが、顔はあまりやられないもので(個人差があるのか)防虫ネットの必要性はそんなに感じられない。

すぐに矢木ノ沢出合で、いきなり少し泳がされ女川ゴルジュの洗礼を受ける。ゴルジュは10m前後の幅で両岸が切り立っているが壁はそれほど高くなく威圧感はない。ヤブもなくすっきりとして気持ちのよいところでゴーロと淵が交互にあらわれそれが延々と続くことになる。淵は一見深そうに見えるが、深いところはそんなに多くはなく首までの徒歩でしのげるところが多い。泳ぐところは本当にわずかで、深いところでもすぐ上の岩の上を巻くか、足が着かない廊下状の淵でも首まで水に浸かって壁際をへつっていくことができる。水量は多いとも思えず、ほとんど平坦なところをきわめてゆったりと流れているのでこんなことができるのだろう。

それにしてもここまでどっぷりと絶えず水に親しむことになろうとは。もうずっと水に浸かりっぱなしのような状態で、あのうっとうしいアブもあのブッ倒れそうなクソ暑さもいつの間にかふっ飛んでしまった。日の当らない深いV字谷の底は今や寒いくらいだ。それでもたっぷりと泳ぎを堪能したい人にはうってつけの沢ではあるまいか。ところどころゴーロでとぎれるものの、泳げる淵はそれこそ際限がないほどで心ゆくまで存分に水に親しめるはずである。

快適で素晴らしい淵をタップリと味わった我々は、もう満腹で寒ささえ感じ始めており早く単調なゴーロに出たいとかあのクソ暑い日光に当たりたいとか、およそ沢屋としてはあるまじき欲望を抱き始めていたのである。地図を見て、沢が東に向きを変えるあたりでゴルジュを抜け出しゴーロに出るだろうと予想をしていたが、はたして長いゴーロに飛び出し安堵に胸を撫で下ろす。つり師のテントを左に見て3人のつり師とすれ違うとまたしても長く深い淵に阻まれる。ここを水中のへつりで突破すると、それからも小さい淵がけっこうあらわれる。どうも淵からは完全には解放されないらしい。それでもゴーロ帯に出たことにより両岸の傾斜がゆるくなり、立派なブナ林が目につくようになったのがうれしい。

280m付近で絶好の泊り場を見つける。なかなかアブが消えず鬱陶しかったが、いつしかアブも消え盛大な焚き火で冷えきった体をあたためる。フライの下で寝た私と中井君は朝まで虫の攻撃を受け続けほとんど寝ることが出来なかった。

◆8/11 晴れのち雨

穏やかな流れの広いゴーロ帯を時々淵に浸りながら進む。今日もアブが出迎えてくれる。記録に出ていた蕨峠からの登山道は残念ながら確認できずに終わる。それにしても、周囲に広がるブナ原生林の見事さはどうだろう。樹齢200〜300年はありそうなブナの巨木がびっしりと全山を覆っているような気配があり凄みさえ感じさせられる。あの世界遺産の白神山地のブナ林に匹敵するような広大なブナ林が、何の保護指定も受けず(たぶん)ひっそりと誰にも知られず手つかずのまま残されている。どうかこのままブナ林全域をいつまでも残して欲しいものである。

泊り場から牛股沢出合までをなんと1時間というハイペースでの踏破に成功する。これに気をよくして計画どおり記録のない牛股沢に入っていくことにする。牛股沢に入るといきなり狭いゴルジュとなり淵状となっているが、なにしろ水量が半分以下に減っているのでまったく楽なものである。深いブナの森の中の坦々としたゴーロ歩きが延々とつづくが、すばらしくうっとりするようなブナの森のおかげでまったく苦にならない。途中で見かける急斜面では土が流出してしまい若い木や草がはえているのが目につく。この辺の山はほとんど薄い表土の下が岩盤でできているらしく、尾根の上部では完全に巨大なスラブが露出しているところが見られた。地図には牛股沢を途中で横断する奇妙な県境線が引いてあるのだが、実際には何の目印も確認することができない。五郎三郎沢出合では地図にある登山道を確認する。はっきりした道で今も使われているのだろう。

東股沢に入り、女川で初めての滝に出合う。5mと小ぶりながら新鮮な感じがする。短いゴルジュを抜けたあともゴーロはつづき、480mの支沢を過ぎると沢幅はぐんと狭まり岩やスラブが目立つようになり岩の溝のようなところを歩くようになる。540mの二俣から右の沢へ入り961mピークを目指す。小滝が連続してあらわれやっと本格的に高度を上げはじめる。この頃から雨が本降りとなる。源頭部の急登は水もなく、ヤブのかぶったガレ沢をひたすら登り続ける。

待望の961mピーク付近はヤセ尾根で両側がすっぱり切れ落ちており恐ろしい所である。そのためか高い木立ちが見られず低い潅木ばかりとなっている。強風と雨で吹きさらしのピークには耐えられず、たまらず北側の尾根に下りブナの森に見を寄せる。ピークへの高度差のある急登ですっかり時間を食われ、すでに時計は4時半を回ってしまった。いい泊り場を求めて焦りながらの白沢への下降を始める。

源頭部はヤブも大きな滝もなくスムーズに下っていけるので、これは意外に早くいい泊り場を見つけられるのではないかという期待が膨らむ。すでに雨は上がっている。支流が合流して大きさを増すと、すぐに10m級の滝がストンと落ちており我々の足を止める。ここは懸垂よりも巻く方が絶対速いとばかりに右岸を巻いていくと、さらにもう一つ滝がありこれも巻いていくと2番目の支流に出合う。この支流を下って沢床に降りようとするがなんとここもゴルジュ状の滝となっており下れない。さらに巻きをつづけ降りられそうな斜面を恐る恐る下っていくと最後は20mの断崖となっている。すでに闇が静かに忍び寄ってはいるが、ここは仕方なくザイルをつなぎあわせての懸垂となる。そして5人全員が沢床に降り立つ頃には完全に漆黒の闇に包まれてしまう。またも闇夜の中の沢下降かと、私にとっては悪夢のような昨年のあの笹生川下降が脳裏をよぎる。

そして、その悪夢はまたも現実のものとなり我々に襲い掛かってくる。なんとそこからは闇夜の中、巻くことも出来ない5m前後の滝が連続してあらわれるのである。さいわい滝が小ぶりなため下部が見えるので迷わず懸垂で下っていける。とはいえ、今日の最後の局面に来て最悪の状況に追い込まれてしまったようだ。滝をひとつ下る終わるたびにもう滝はないだろうと思っているとすぐにまた次の滝があらわれるという繰り返しで気が休まる時がない。真っ暗な滝壷に首まで浸ったりと、いったい何回懸垂を繰り返したのだろう(5〜6回?)。ゴーロがつづいて右から沢が合流している所に出る。やっと広い河原があらわれ迷わず泊り場に決める。ここは480mの二俣だと思われる。なんと時計は10時25分。本当に長くつらい一日になってしまった。

◆8/12 くもり(一時激しい雨)

昨夜は激しい雷雨で目を覚ましてしまう。明け方まで雨は降り続けていたようだ。幸いたいした増水もなく泊り場は安全である。それにしても、昨日最後の記録にない連瀑帯の下降は強烈であった。ひょっとして女川周辺の山域は、山道もほとんどなく深い原生林に覆われたとんでもない山域なのではないかということを思い知らされた出来事だった。はたしてあと1日でこの女川最奥の地から抜け出すことが出来るのだろうか。蕨峠の登山道へのエスケープも考えたが、あまりにも遠く長い。やはり計画通りここから西へ沢を詰め、尾根を越えて藤沢川へ下降するのが最短ルートのように思われる。

白沢の左沢に入る。ゴーロがつづき5m前後の滝が散発的にあらわれる。一ヶ所2つの滝を巻いて懸垂で降りる。沢は狭いガレ沢となりグングン高度を上げ始める。この頃から雨が降り始めすぐに土砂降りとなってしまう。誰もカッパを着ようとはせず全員ずぶ濡れのまま登り続ける。いくら盛夏とはいえ徐々に寒さで震えがとまらなくなってくる。そのうちに、何でもなかった源頭部のチョロチョロした流れが、見る間に渡れなくなるほどの激流に変貌する。これにはさすがに全員ブッたまげてしまい、もし昨日の泊り場でこんな鉄砲水にやられていたらひとたまりもなかっただろうと恐ろしくなってくる。この山域では泊り場選びにも細心の注意が必要であるということを身を持って学ばされたのであった。

やがて雨もやみ森の中の急登を登り切り、959mピークの少し北あたりで分水尾根を越える。この辺深いヤブでしかも尾根がダラッと広いので少しわかりづらい。深いブナの森を藤沢川方面へ下降していくが、沢の手前で断崖に阻まれ広い斜面を右へ右へとトラバースさせられる。そのうちにまたも激しい雨が降り出し、沢はまたも急激な増水となり、しばらく減水待ちのためにツェルトをかぶって待機する。小1時間後に減水を確認していよいよ沢の下降に入る。すぐに藤沢川もそんなに甘くはないらしいことがわかってくる。昨日下降したのと同じような巻けない5m前後の滝がここでも出てくる、出てくる。またもや懸垂につぐ懸垂の連続だが、今日は日中なので周囲が丸見えで気分はよく懸垂を楽しむ余裕さえある。

420m地点の少し手前で本流に出合うと広くゆったりした流れとなり、女川のようなすばらしいブナの森を眺めながらの楽しいゴーロ歩きとなる。左岸からカンニャゴエ西沢が出合ったところで左岸にあるという巻き道を捜してみる。なんとも心細くはっきりしない道で、使えそうにないのであっさり諦め再び沢の下降をつづける。しばらく行くと広い本流が滝となって落ちている。滝は10m以上はあり下部は巨大な溝状ゴルジュとなり右へ曲がり、沢全体が深い渕となっているようだ。何かとてもいやな物を見てしまったようで軽い眩暈さえ感じてしまう。このゴルジュへ降りるなど問題外で、もしこんな物がこれからも出てくるようなことがあれば、昨日の悪夢がまたも現実のものとなってしまうだろう。林道が出てくる下降終点までは1kmそこそこだが、闇は迫り地図のゴルジュ記号は最後まで続いており心配の種は尽きない。

この溝状ゴルジュは左岸の長いトラバースで切り抜け急斜面から沢床へ降りる。地図にある長いゴルジュ帯に入る頃にはヘッドランプを点けての下降となるが、右岸に巨大なスラブ壁が続くくらいで障害となるようなものは何もあらわれない。坦々としたゴーロ歩きが続くと、突然巨大な堰堤上に出、目の前に広大な空間が広がっているのがわかる。たぶん林道のある所まで来たのにちがいない。堰堤の左岸上はかなりの急斜面で道のようなものはまったく見当たらない。200mほど引き返し登れそうな斜面を見つけて登ってみる。急だがなんとか登れて最後はよく踏まれた道に出ることができた。ここから林道まではすぐだった。さらにデポしてある車までは15分。8時半になっていた。皆さん本当にお疲れ様でした。

連日のハードなヘッデン行動でメンバー全員ヘトヘトになっての決死の脱出行であった。何よりも全員無事で下山することができて本当によかった。それにしても初日に見た女川と藤沢川下流部ののんびりと牧歌的でしょぼい渓相からはまったく想像もできない上流部の原始の森、深い渕、すごいゴルジュ、そして予想もしなかった豪雨による急激な増水といった大自然の驚異をまざまざと身を持って体験させられたとても刺激的で内容の濃い3日間であった。わずか1000mほどの山域とはいえ、まったく侮れない心してかかるべき山域である。

<コースタイム>

8/10 9:45女川林道ゲート(吊橋の架かっている所)10:50〜11:20
トンネル 11:30トンネル下で女川入渓 16:40泊り場(280m手前)
8/11 7:30出発 8:35〜55牛股沢出合 10:55五郎三郎出合
13:10奥の二俣 16:35 961mピーク 22:25泊まり場(白沢奥の二俣480m)
8/12 7:20出発 11:30分水尾根 16:30〜45藤沢川本流 
17:20カンニャゴエ西沢 20:05〜15林道 20:30デポ車

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