冬の集中C・白山/弓ヶ洞第一岩稜〜大ノマ谷第一岩稜〜三方崩山

■02/03/9-10    ■林正/蘭  ■林正(記)


松阪で電車に乗りこんで一安心、バックの中から妻が作ってくれたおにぎりを取り出そうとするが、見つからない…どうしても見つからない!テーブルの上に忘れてしまったことを確信したその瞬間に携帯が鳴った。おにぎりを忘れているという妻からの電話であった。がっかりだ!と嘆く僕に妻が言った。「私の方ががっかりだ!!」

9日(快晴) 昨夜は平瀬の共同浴場に4パーティー13名が集まり、星空の前夜祭を楽しんだ。夜明け前に、蘭君の新車で156号線を北上し、そのまま弓ヶ洞谷林道に乗り入れようとするが、20cmほど積もった新雪にオデッセイのタイヤが空回り。何度かトライするが、蘭君の泣きが入り、国道の反対側のスペースに駐車することにした。途中で買ったおにぎりを頬張ると、昨夜の悔しさが蘇ってくる。全部で4つあったおにぎりの内2つは朝食用だったのだ…

気を取り直して弓ヶ洞谷の長いアプローチを開始。それにしても素晴らしい青空だ。このスカッ晴れに、今回の集中の成功を確信する。しかし、輪かんを履いても膝前後までもぐってしまう湿雪の重いラッセル…昨年3月に来たときとは雪の締まりが全然違う。この時期の2週間の違いは大きいのか?360度雪に囲まれた「スキー天国」弓ヶ洞谷の中を輪かんでラッセルしている姿は何だか滑稽で悲しい。当初はミニスキー「フリートレック」を履いて鼻歌混じりのルンルン・アプローチを想定していたが、使用中に損壊したという情報がネット上で流れ始めたことにより、購入を見合わせることにしたのだ。この情報が発端となったのかクレームが相次ぎ、ついにはリコールにまで発展していた。

今回登ろうとしている第一岩稜は、弓ヶ洞谷左俣の最奥にある。昨年3月の第二岩稜登攀中、隣りに見える第一岩稜の末端岩峰が印象に残ったが、ルート自体の標高差はわずかに320m。登るなら大ノマ谷の第一岩稜とセットにしようと決めていた。そして今回、係の特権を利用して、その継続登攀にやってきたわけである。中華鍋の底にいるかのような灼熱の重いラッセルに喘ぎながら第一岩稜末端に着いたのは13時40分、このアプローチになんと7時間近くを要してしまった。末端は、薄く雪をまとった岩峰となっており、アプローチ中はかなり絶望的な傾斜に見えたが、着いてみると登れそうにも思えてくるから不思議である。登攀具を付け、計画通り末端岩峰に取り付く。

1P目:2本に分かれている支稜の間のルンゼをノーザイルで登高(こういうのを「タンデム・ソロ」というらしい)していくが、上部でかなり傾斜が増してきたためブッシュでセルフを取ってロープを出す。

2P目:8mほど下にいる蘭君にロープを垂らして登ってきてもらい、傾斜も大したことなさそうなので、そのままツルベでリードしてもらう。苦闘1時間!姿の見えなくなっていた蘭君からようやく「ビレイ解除」のコールがある。寒さに固まった体をギシギシ言わせながらフォローで登り始めると、これが意外に悪い。軟雪にアックスのピックは決まらず、シャフトだと下のスラブに当たって半分しか入らない。もちろんアイゼンを思い切り蹴り込んで登れるような代物ではなく、騙し騙しの登攀が続く中、傾斜も次第に強くなってきた。しまった…ここが核心だったのだ!岩峰を登りきって傾斜が緩み、蘭君の姿を見た瞬間、自然に「お見事!」という声が出た。蘭リード、40m。

3P目:岩峰のピークから黒部の雪稜を思わせる見事なナイフリッジを経て、蘭君が「海坊主」と呼んだスノーキャップまで林リード、60mいっぱい!

4P目:水平のリッジがやがて雪壁に吸収され、核心は終わる。蘭リードを途中からコンテに切り替えて100m。

ロープをたたんで、18時の交信を行う。このときはまだ頂稜か北尾根付近で雪洞を掘るつもりだったが、しばらく登高すると、1900m地点の大木の下に「どうぞ泊ってください」と言わんばかりの魅力的な平地があり、あっさりその誘惑に負けてしまう。食後、蘭君が喉の痛みを訴え、風邪を引いたかもしれないと言う。もし風邪ならば、明日の大ノマ谷第一岩稜は諦める他ない。東面で風も当たらないので、ペラペラテントでも快適な一夜を過ごすことができた。

10日(快晴→雪) 4時起きで蘭君の調子を聞くと、どうやら風邪ではないらしい。水分の摂取が不足していたところに、麻婆茄子やらウイスキーなどの刺激物を詰め込んだせいかもしれない。6時10分に出発し、北尾根に出たところで7時の交信。日帰りパーティーを除く全てのパーティーと交信が取れた。ここからアイゼン輪かんに切り替えて頂稜の2020m付近へ飛び出す。まだ8時前だ。昨日のような積雪状態ならほぼ確実に間に合わないだろうが、山頂で4時間も待つという性分でもなく、少しの遅れなら…という気持ちで、予定通り大ノマ谷を下り、第一岩稜の最末端へ。昨年5月に浅野さんと登ったP2正面壁には薄く雪が付いているが、相変わらず落石がある。9時に登攀開始。

1P目:ロック&スノー&ブッシュ(岩・雪・藪)のミックス・ピッチを登り、比較的安定した雪面まで。林リード、55m。アックスにリストループを付けていない蘭君にとっては、非常に厄介な登攀だったようだ。

2P目:比較的安定した雪壁。蘭リード、50m。

3P目:スラブの上に薄く軟雪を付けた雪壁から雪稜に乗り、シュルントの段差を越える。林リード、55m。ここで蘭君を確保しながら11時の交信を行う。もう3パーティー集中しており、次の交信を12時半に行うことを決める。

4P目:次第に傾斜を増していく雪壁を蘭君が右上ラインからトライ。50分ほど粘るが、上部の垂壁がどうしても越えられない。トップを交代して左上ラインにトライ。垂直ブッシュを掴み、上の雪面にシャフトを突き刺してエイヤ!で乗りあがり、垂壁を越える。さらに雪稜にロープをのばしてP1へ。林リード、50m。早くも12時半の交信だ。集中している3パーティーは先に下山し、大ノマ谷第四岩稜の浅野パーティーも山頂を目指さずに南尾根を下ることになった。核心といわれるP2への登りに備えてここで休憩を取る。頂稜を歩く一団が見え、コールして手を振ると、コールを返してくれた。向こうからもこちらの姿が見えているのだろう。

5P目:軟雪のナイフリッジを忠実に登り、途中からリッジの北側斜面を進む。蘭リード、55m。

6P目:リッジを離れてそのまま北側斜面を15mほどトラバースし、ほどよく締まった快適なルンゼを登高する。ダブルアックスでサクサクッと登りたいところだが、今の僕にはノロノロとしか登れない。最後は軟雪を左に回り込んでリッジへ戻る。林リード、60m。あたりは雲に包まれ、やがて雪が降り始める。

7P目:ホワイトアウトの中、緩い雪稜を20mほど登りP2へ。ここから左へ直角に曲がってナイフリッジを進み、P3へ。60mロープがいっぱいになったところでコンテに切り替えて、そのまま150mほど進む。

南尾根に出てから、三方崩山の頂は予想以上に遠かった。個人的には通算6度目となる山頂に到着したのは、16時20分。集中時間より4時間20分の遅れであった。急ぎ足で下降を開始してデポを回収し、東峰付近で17時の交信となる。下は雨だというが、こちらはホアイトアウトの中、降雪でかき消されそうなトレースを拾いながら、ひたすら下降を続ける。途中にAパーティーが作ったと思われる巨大な雪洞があったが、日が没してしまう前に安全圏に入っておきたかったため、先を急ぐ。長い平瀬尾根、下りでこれだけ時間が掛かるのだから、ここをファーストラッセルで登ってきたAパーティーの苦労が偲ばれる。ヘロヘロになってようやく平瀬に辿り着いた。タクシーで車の回収に行く蘭君の言葉に甘えて、21時で閉まってしまう共同浴場で温泉につかる。

今回僕達がトレースした2本のルートは、アプローチ等を含めた積雪状態は決してベスト・コンディションというわけではなかったが、時期的にはやはり今しかないと思わせるものがあった。弓ヶ洞谷第一岩稜の末端岩峰は、もう2週間遅いと昨年見たように雪が剥がれてスラブやブッシュが露出して難しくなるだろうし、大ノマ谷第一岩稜の末端もスラブかブッシュラインの何れかを登路にしないといけないだろう。そういう意味では適切なルート選択だったと思う。これが冬の集中でなければだ。係総括にも書いたことだが、係でもある僕が集中できなかったことは大いに反省すべきで、山頂で待っていてくれた皆や同行してくれた蘭君に対して誠に申し訳なく思っている。

結局この日は、2月の唐沢岳の時と同じように電車では松阪まで辿り着けず、妻と娘に四日市まで迎えにきてもらった。おにぎりの忘れ物と深夜のお迎えに恐縮しながら、後部座席でキリンの「極生」を飲まさせてもらう。美味い…

[コースタイム]
3/9弓ヶ洞林道入口6:55)弓ヶ洞谷二俣(9:00〜10)弓ヶ洞谷第一岩稜末端(13:40〜55)1900m付近(18:30)
3/10幕場(6:10)北尾根(6:45〜7:00)三方崩山頂稜2020m付近(7:30〜45)大ノマ谷第一岩稜末端(8:30〜9:00)南尾根(15:45)三方崩山(16:20)平瀬共同浴場(20:20)

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